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6 マスカの村
二人が村についたのは、ちょうど昼を過ぎた頃だった。
村というよりは街という印象を受けるくらい広く、一にあふれていた。
二人に向かって小さな少女が籠を持って近寄ってくる。
石売りの少女だろうか。
空の国は北側を海に背くように山脈が通っている。
それは国境であるほうに、つまり隣の海の国に近づくにつれて低くなっていきやがて小さな丘を終点とする。マスカの村は森を抜けきる少し手前に位置しておりタリテと同じようにぴったりと山脈に寄り添うようにして存在していた。
しかしタリテとは違い山脈が低くなっていく位置にあるため村の後ろに小高い山があるだけである。
そして、その山では石が取れた。
「石買いませんか〜?幻光石ですよ」
愛想のよい顔をして少女は言う。
スバルはそれを見て笑った。
「石?ああ…そっかこの辺では幻光石とれるんだったね」
「ふ〜ん。安いのか?」
「それはもう!」
少女は顔に満面の笑みを浮かべていった。
「この森と山脈に囲まれるようにしておかれているマスカの村ではこの国で最高の!
幻光石が取れるのでありますよ!お兄さん!
日々村の男達はあそこに見えます宝の山、赤山にでかけ石を取っております。
その間女達は男達の取ってきた石を加工して祈り石にしたりしているのです
産地ならではのこの安さ。なんと一つ90キルです!」
まだハヤテたちより3つほど若いだろうに、少女はすらすらと売り文句をいうとまたしてもにっこりと笑った。ちなみに100キルでドーナッツの詰め合わせが帰る値段である。
「どうする?スバル。
買うか?」
「いらないよ。あたしは。
あ…でもやっぱ欲しいや。・…マスカの幻光石、お師匠様好きだから」
「師匠?」
「うん。色陣の師匠。
お師匠様は色陣以外にもいろいろ占いとかいろいろなさるからね。
この先に奏海があるでしょ?その向こうの歓砂にいらっしゃるの。」
「ふうん。
じゃあさ、かってこう。
どうせ俺らも必要かもしれないし」
そういって二人は幻光石を10個ほど購入する。
その夜、二人は奏海に入る前に国境を越えるためのパスをとるため一日泊まることになった。国司といえどパスの発行には国境で受け取れる許可印と出発国の承認が必要だった。パスがなくては宿などで『旅人割引』がつかえないのだ。
しかし出発国の承認…つまり一番近く発行してくれるマスカの村長の許可印をもらおうとしたところ明日の明け方に帰る、とのこと。
しかたなく二人は村の小さな宿屋に落ち着いた。
「なあスバル?
今朝の熊っ子どう思う?」
ふいに。
ハヤテは言った。
「小熊…でしょ?
私は…やだなあ。できるならもう見たくないね」
重い空気。
それは旅をする上で、魔獣と戦う覚悟を持つ上でどうしても味合わなければいけないものだった。
そんな空気の中ハヤテは意を決したように立ち上がった。
「あのな、俺…昨日の夜…変な生き物を見たんだ」
「変な?」
「ああ。
なんだか魔獣のような獣のような生き物」
ハヤテの言葉を聞き少し考えたような表情をするとスバルは聞く。
「今朝の熊さん?」
「んにゃ〜」
ハヤテは頭をかいた。
ゆっくりと部屋の中央にいるスバルのほうに歩いていき隣に腰をおろす。
「今日の熊じゃない。
なんだか…すごいおまえを呼んでた」
「は?」
「呼んでたんだよ…スバルを」
なんだかもどかしそうな表情をする。
一瞬とてもためらったように息を呑むとスバルをにらんだ。
「あの獣は…きっとお前を探してた。
そして今もきっと
あの獣とどんなつながりがあるんだ?あの、見たこともない獣と
っていうか…スバルは何者?」
かみ合わない心。
分からないことは聞くしかないのだが聞いたことによりハヤテは後悔した。
きっとそれは言い方などの問題ではなく、何も知らないただ周りのことすらわからない自分へのもどかしさの表れ。
「何それ。
自分が何者かなんて…考えたこともないよ。うん。
獣さんなんてわからないもん。獣ってなによ、獅子とか?熊とか?
ハヤテは…あたしが獣とつながりがあったら嫌いになるの?」
おずおずと聞くスバルにハヤテは首をぶんぶんと横に振った。
その瞳は硬く閉じられ、もどかしそうな表情が顔に浮かぶ。
「ハヤテ」
スバルは小さく言った。
ハヤテのその、閉じられた瞳はゆっくりと開いていく。
そしてゆっくりと謎だらけの少女に目を向けた。
スバルはハヤテの片手を取りそれを握ったまま下を向いて放さない。
ついこの間であった少女は、前にすでに出会っていたかのように親しそうにハヤテの手を握る。
「ハヤテ。
あのね、あたしはね。きっと何も知らないんだ。
ハヤテの力にはまだなれない。
獣のことも…わからない。でもね。
でも…でも!」
その握る手に力がこもる。
肩を小刻みに震わせていたかと思うと眉を吊り上げてスバルは叫んだ。
「ハヤテだって分からないことばかりだ!
なんだかあたしのことよくわからない変なやつだと思って!
そんなのハヤテ勝手すぎる!
だいたい表現がよくわかんないんだよ!呼んでるとか聞こえるとか!
人の正体聞く前に自分の事さらけ出せ!」
はあっ
荒れる息。
「な〜んだよ〜」
息の荒くなったスバルをじっと見つめていたかと思うとハヤテは声をあげる。
よほどツボだったのだろう。楽しそうに笑い出す。
「っはは〜
ごめんよ、スバル。
っはは…いや、マジウケる」
苦しそうに腹を抱え先ほどまでの空気を消すように手を振るとハヤテは数秒笑いつづけた。
「悪かったよ。スバル。
その…あまりにも…な?獣が印象的だったもんで。
すごいスバルの事言ってたから、きっと古い仲なんだろうなあって思ってな」
その言葉にスバルは眉をひそめる。
「もう、本当にハヤテこそ何者なのさ…
いろいろ含めて、一体何?」
「秘密」
そっと口に手を当て、ハヤテはいった。
「っは!
自分の事もいえないようなヤツと旅してるなんて!
あたしもかわいそうなヤツだよ!」
「お互い様。
ほら、飯食いに行くぞ」
スバルの頭を軽く小突いてハヤテは横を通り過ぎる。
そして入り口の前で止まる。
「それに…あかせないわけじゃないさ。
お楽しみは先に延ばしてきましょうよ
先は長いことだし」
そのセリフを言ったやいなや、すぐにハヤテは背を向け食堂に言ってしまう。
しばらくほうけたようにスバルはたっていたがやがて小さく笑った。
「何言ってんだか」
短く言って走り出す。
その楽しげな後姿はやがて食堂の方に行く。
ヒュ〜
そしてその姿は嬉しそうに口笛をつむいだ。
その音は暗い夜に月に届く。
果て無き霧の晴れぬ場所にも。
-----反省------
やっぱり主人公達たるもの少し秘密は欲しくて。過剰に描きすぎると二度と見られぬ作品になってしまうので、気をつけなくてはなりません。
人のことを一目見ただけで見通してしまうようなものは私達にはなく、内にあるものは決して外から見えるものではありません。
だからふれあい、だから会話す。
それが秘密であろうと、それが小さなことであろうと。
人の事を知ることはその人に近づくこと。
だれもが知っていくのだと信じたい。
かもしれない(え!?)
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