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5 マスカの獣
夜が明けて一番にハヤテが見たものは極めて見慣れぬものだった。
目を開けても微妙に暗いのだ。しばらく考えてやっと自分の目に布が当てられている事がわかる。しかし朝で血圧が低い上に硬い缶や巻物などの入っている袋を枕にしたので頭が痛い、加えてなれぬ姿勢で寝たために微妙にしびれる手足。こんな最悪の状況ではハヤテの頭がまともに状況を認識できるわけが無かった。
「んご?」
「あ〜、ハヤテ。
なに?おきちゃったの?
あ・・よいしょ!」
なにやらよくわからない掛け声と共にスバルはごそごそと音を立ててから
ハヤテの目に当てられていた布を取った。
「オハヨ」
「オハャ」
なんだかよくわからないテンションでやり取りする二人。
ハヤテは悪態をつきながらぶつぶつと起き上がると昨日汲んでおいた水で顔を洗った。
「っは〜。起きた。
さて、スバル。なんだったのさ、今朝の布は」
「ああ。あれね。
いいじゃん。
だって着替えてるときに起きられても困るもん」
「じゃあ起こして遠くにいかせりゃいいだろうが」
「だって・・・」
両頬をぷうとふくらませスバルは腰に手を当てた。
まるで威厳を出そうとしているかのようだったがあいにく出ていなかった。
「ハヤテ起きないじゃん。
そういうせりふは起こされて起きれる人がいってください!」
スバルはそういうと乾燥パンとバター、それとジャムをハヤテに渡す。
そしてあらかじめ五色陣で火をおこして沸かしておいたお湯でコーヒーを入れると熱いのだろうか、タオルでカップを包んでハヤテに渡した。
「さて、旅先でもこのくつろげる朝ご飯はどうよ?ハヤテ君」
「うむ、なかなか。
っつかおまえコーヒーのむのか?」
「ううん。飲まない。
苦いもん。あたし甘いほうが好きだから」
「じゃあなんでコーヒーなんてもってきてんのさ」
そういわれてスバルは一瞬考えるように腕を組む。
しばらくしてからポンっと手を打った。
「小さいころにね、旅にはコーヒー!って教えられたからだよ。
あたしはコーヒー飲めないし、長く持たないから牛乳持ってないし。
だから朝は紅茶なの。たまに緑茶だけど。
なんか飲まないとダメなんだよね、朝って」
ハヤテが食べる様を見ながらスバルは言った。
そしてハヤテが食べ終わると二人は早速出発した。
前日のうちにかなりの距離を進んでいたので旅は順調だった。
村までもう一キロもないだろう。村の屋根やら何やらが見えてきたころ、ハヤテは急に止まった。
「うぷっ」
それまでハヤテの背について歩いていただけのスバルはおもわず背中に顔をうずめる。
「いっつ〜…なに?どうかしたの?ハヤテ」
「どうかしました。
近くに魔獣さんがいらっしゃいます」
「うそ!」
驚きの余りかスバルはその短い髪を包み込むようにして頭を抱えると首を左右に振った。
「おいおい。大丈夫か?国司さんよ。
そんな距離はないはずだ…このままあるいてったら村まで案内しちまうぞ」
ハヤテはそういって連結棒を取り出す。
すばやくそれを組み立てると魔獣がいるであろう、西の方向を見てかまえた。
「どうしてわかるの?
まだ姿も見えないのに」
「聞こえるのさ。泣き声が」
「鳴き声…?
まあいいや。どうする?どのくらい数いるの?」
「う〜ん。
二匹」
しばらく耳を澄ませてハヤテはいう。
するとスバルは近くの丸太に腰をかけた。
「まかせた」
「おい!」
スバルのお茶目な?行為に文句をつけようとしたその瞬間!
ドン!
あたりに大きな音が響く!
「なに!?」
「やば!追いつかれた!」
小さくそういうのが早いか否か、ハヤテは大きく後ろに跳ぶ。
そこにいたのは体長2メートルはあろうかという大きな熊。
熊だったもの。といったほうが適切であろう。
その巨体はもはや熊とは思えぬほど硬くなっていたし、振り上げた爪は余りにも長かった。
何かの虫によって感染したのだろうか。
温かみあふれる獣はもはや魔獣へと変貌を遂げていた。
「熊!?」
「こいつはもう熊じゃないよ」
ハヤテは、苦々しくスバルのつぶやきに答えた。
しかしその瞳は薄紫に染まり、口から漏れる唸り声は魔を潜ます。
魔獣・・・・二人は悟った。
世界には大きな驚異として「魔獣・魔物」がいる。森などにいる獣はそのままでは無意味に他を傷つけることを知らないただの生き物に過ぎない。しかし毒虫や毒草により感染する『毒』により獣は他を傷つけることによって生きる魔獣へと変化を遂げ、自我さえ虚ろになり原形をとどめておくのも時間の問題となっていく。魔物は純たる魔のものであり、混沌より出で来て魔を広め静かに帰り行く存在。それは例えば人の形をとり人の中にまぎれ小さく息を潜めていたり、例えば森の中であらゆる生物に寄生し魔という毒を散らすものとなる。
そして、この熊のような存在は・・・・魔獣と呼ばれた。
己を忘れ、暴に走る。
瞳に生の色はなく、いかなる叫びもうけつけぬ存在。
これらは魔物の散らす魔により染まったもの。
生きた存在は失われ魂は死に。
ただひたすら
求める。
「もう・・・手遅れ・・・なの?」
「手をくれもなにも・・・!」
ブンッ
熊の、魔獣の手が大きく振られる。
その手を慌しくよけながらハヤテは連結棒を握り締める。
「こいつらに・・・!
もう声はとどかない!!」
にらみあう両者。
ハヤテは荒い息をつき、魔獣はその巨体を揺らす。
異常に光る目、ゆがむ表情。
ハヤテは苦しそうに顔をしかめた。
「ハヤテ、もう・・・・」
「わかってる」
あらかじめそうと決められていたかのようにつぶやいたスバル。
その方向を見もせずにハヤテは走り出す。
果たしてハヤテはその瞳のいろに気がついたのだろうか。
ただ前だけを見て。魔獣の瞳を捕らえ。
「っ・・らぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
高い跳躍、振り上げられる武器。
ズムッ
音だけが、散った。
ゆっくりとソレは地に倒れ、ピクリとも動かなくなる。
二人は顔をゆがめしばらく黙る。
沈黙は気配によって破られた。
「スバル・・・動くなよ」
「ハヤテ?」
ゆっくりとスバルの方にやってきて手でスバルを後ろに控えさせるハヤテ。
スバルはわけもわからずハヤテと同じ前を見据える。
倒れるソレがやってきた西のほうを。
カサリ
小さな草が踏まれる音がした。
見をすくめる二人。
「さっきの・・・もう一匹のほうだ。
ずっとこっちをみてたらしい・・・・」
姿の見えぬそれに恐怖をいだきつつにらみを聞かせる。
カサリ
もう一度小さな音。
武器を構え直すハヤテ。
「ハヤテ」
スバルはふとハヤテの武器を掴む。
「なんだよ!おい!スバル!
はなせ!危険かもしれないだろ!?」
「ハヤテ、だめ」
「おい、なんだよ!」
ハヤテはぶんぶんと連結棒をふる。
もちろん力でかなうはずが無く。スバルはすぐに手を振り払われる。
「どうしたんだよ、まったく」
「だめだよ、ハヤテ。そんな怒りに満ちた目でみつめては」
スバルのその冷たい静止の一言にハヤテは一瞬たじろいてから武器を下ろした。
武器を下ろしても警戒は怠らない。
獣に視線を注ぎ、意識はスバルのほうに寄せてあった。
「だめ、そんな目でみつめては
ハヤテ・・・大丈夫だから」
小さく言った後スバルは両手を差し出すと森の中、獣のいるであろう方向に手を向けた。
手には何ももつはずもなくその薄紫の目をまっすぐ向けている。
ゥウウ
ふと、小さな唸り声が聞こえた。
それは紛れもなく獣のもので。
圧倒的なプレッシャーを持つ魔獣のものではなかった。
ヒュ〜
スバルがまるで落ち着かせる呪文であるかのように獣に向かって口笛を吹く。
そう、つい先日ハヤテに向けたのと同じ口笛を。
「・…。
ただの獣らしいな…小熊と見える」
ゆっくりと近づいてきた獣に見てハヤテはいうと、くるりと背を向けた。
もちろん背後から襲われないという確信はない。しかしそんなものは必要なかった。
「かわいいね。
さっきのは…ママさん…かなあ」
もはや動かぬその巨体を見ることなどせず、小熊を眺めつつスバルはいう。
小熊という輪郭をみせてきた獣はしばらくうなりつづける。
しかし二人とも慌てることはなく。
スバルはもう一度口笛を吹いて、ハヤテはゆっくりと口を動かし聞こえぬくらいの小さな声で何かを言うと村へ向かって背を返し歩き出した。
母を無くした小熊に向けるべき言葉を乗せて風は流れる。
浮かない顔の二人の背後を小熊は襲うことすらせずに、そっとそこに横たわる巨体に身を寄せた。
かつてそうしていたように。
かつてぬくもりを求めたように
反省といいつつ反省にいつもなっていないところが味噌でしょうか。
急いで作ってるのがバレバレな感じ★がんばります。
どうでもいいんですが今日でGWもおしまいなので寂しいです。
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