ESPY 2
その瞬間意識は飛んだように真っ白になり
とにかく驚いた。
「へっ…」
引っ張られた瞬間自分の口から漏れたのは思いもよらない間抜けな声で
しかしそんなトモにかまわずサトルは荒荒しく椅子や机を蹴飛ばしながらドアを空けた。
「俺も行く」
「へ?」
またしても間抜けな声。
しかも先輩に向かって。
しかしサトルはというと気にした様子も無く腕を掴んでずかずかと進んでいく。
ああそうだ、ノゼハを探しにいくのだった
やっと落ち着いた状態になったトモは二つ目の角を曲がったところで腕を振り解いた。
「あ、ごめん」
ちっともすまなそうな顔をしないで平然という。
どうせ一人で部室に残るのが嫌だったんだろう。
「今日ユウとかマリとかいねぇの?」
「あ、はい。
先輩方は見かけてません」
いつもはノゼハとサトルとトモと、それと二人の先輩とでお菓子でも食べながら
遊んだり、勉強したりと色々やるのだが今日は二人の先輩は来てなかった。
「どうせあいつ等裏庭で休んでんだろな…」
裏庭というのは調度部室の裏側、ノゼハのでていった方にある校舎裏の敷地のことで
木漏れ日がさしこむ中々快適な空間だった。
最もその存在が知られないため中々人はやってこないが。
「あの…先輩?
ノゼハ先輩探しに行くんですよね」
「…」
サトルは応えずに前を見て歩いた。
ポケットに手を突っ込み背を丸め歩くところをみると何だか猫のようだ。
「どこからいきましょう…」
友達がこの光景をみたらどう思うだろうか。
サトルは背が大きい方ではなかったが決して小さくはない。
トモの頭が胸のあたりにくるぐらいで随分とバランスが悪かった。
歩きながらろくに返事もしてくれない
怖いし何より最高に気まずかった。
しかしサトルの足はよどみ無く進む。
放課後、部活で動き回る生徒の声が響く中誰も居ない教室がつづく。
人がいると思えば補習をやっていたり、忘れ物を取りにきた生徒だったり。
自分とはほぼ無縁の上級生の教室の並ぶ階はドアのところにクラスの札が置かれていた。
1組、2組、3組…順順に見ていったときサトルの足が止まる。
札を見れば4組。
中はとても静かで校庭に面した窓際の席に一人、生徒が座るのみだった。
座っているのは机の上。
物憂げに頬杖をついていた。
「……」
息を呑む声
サトルが声をかけようとした瞬間人影は気づいたように振り向いた。
「……!
何よ…」
聴き違わぬ美しいノゼハの声。
はっとしたように立ちあがるとまた浮かんで開いている窓から外へ出た。
「…おい待てよ!っくしょ!
何なんだよ!」
大声で叫び駈け寄っていくサトル。
ノゼハはいーっと歯を見せた。
「バカ!
追ってこないでよ!」
「わけわかんねぇんだよお前!
勝手過ぎ!」
「うるさいなぁ
トモあとちょっとで絶対出来たんだから!惜しかったのよ?
それに……」
そこでノゼハは一瞬言葉に詰まった。
「?」
いぶかしげに首をかしげるサトル。
それをみてノゼハは更に怒ったように見えた。
「…もうっ!あたしイライラしてるんだから!
もうついてこないでよ!
次あったら殴ってやる!バカ!」
そのまま身を翻し飛んでいこうとするノゼハ。
慌ててトモは声をかけた。
「せんぱーい!また出来ますから!部室かえりましょうよー!
宿題も見て欲しいですしー!」
声を張り上げるがその声は果たしてノゼハに届いているのだろうか。
振りかえるとノゼハいった。
「ごめん無理。
それぐらい自分でやって。
あと!大丈夫だから、あとでちゃんと荷物も取りに行く、きちんと帰る!
だからもう今日はほっといて!」
イライラしたように、しかし相手がトモだからどろうか、すまなそうな顔になりつつも言う。
こんなノゼハは初めてだった。
何かに対して怒っている。
自分は何かしただろうか。
何も言わずにいるとノゼハ身を翻し飛んでいってしまった。
うしろからサトルの舌打ちがきこえる。
ああもう嫌だ、どうしてこんな風になったんだろう…
そんな風にトモが考えているとき、後ろからぺたぺたと歩く音が聞えた。
「あれー?サトルにトモちゃんじゃん。
何?デート?」
軽い口調。
向かいに居たのは部活の先輩で。
その姿を見とめるとサトルは小さく「ブッコロ…」といった。
トモはといえば意図せず聞えたその声を無視するので精一杯。
無理に笑顔を作った。
妙に軽いノリのその先輩はトモが入部してからノゼハの次に、一番多く話したことのある先輩だった。
明るい色の髪、不思議な瞳。
いかにも異国風の彼は笑うと愛嬌のある、人懐こい人だった。
「ユウさん、どうしたんですか?」
トモはたずねる。
このユウだけはトモが『先輩』をつけずに呼べる唯一の先輩だった。
「ああ、ちょっと荷物とりに来たんだよ。
今日はもう帰る」
「マリと、か?」
「ああ?まあそうだけど。
何羨ましい?」
ユウはふざけたようにいった。
サトルは相手にせずに下を向く。
「マリさん綺麗ですもんねー」
「めんこいよねー」
言ってにっこりとユウ笑う。
なんとも幸せそうな顔のユウをみてサトルは何度目かの舌打ちをした。
「サトさぁ、人相悪すぎ。
もっとこうニコってわらえねぇの?」
「うぜえよ黙れよ」
「……そんなんじゃ今に愛想尽きちゃうよねー?」
同意を求めるようにユウはトモへ首をかしげる。
サトルよりも体格の良いユウがトモへ目線をあわせようとすると少しかがんだようになってしまった。
困ったようにトモは首をかしげた。
「で、何?
二人は校内デートと洒落こんでるわけ?」
舌打ち。
サトルは相手にせずいった。
「つかお前ノゼハしらねぇ?」
「ノゼハ?
ああ…なんか怒ってたね。
ありゃこの間の柿ピー袋ごとパクったのばれたかな…」
沈黙。
ユウは慌てて弁解した。
「いやいや、知らない知らない。
何?どしたの?」
「しらねーよ」
無愛想にそっぽを向くサトルに変わってトモが説明をした。
しばらく聴いた後にユウは考えるように腕を組む。
沈黙が少し続いたあとにユウは口をひらいた。
「またなんかしたのか?」
「なんも、大したことしてねぇよ」
そう。大した事はしていない。
あれは事故だし、あの時しか集中できないわけでもないし。
何故あんなにノゼハが苛立つのかはさっぱり解らなかった。
「まあいいや、俺行くね。
マリ待ってるし。
ま、頑張れや」
言って片手を振りユウは廊下の先に向かって歩いていく。
二人は片手を上げ同じように応えたがなんとも浮かない表情だった。
そのまま部室にもどる。
お菓子をたべて
つたない会話
宿題をやって
少し質問
もう1度集中しゴーヤーとの対話を試みるも失敗。
トモが気まずい空気の中なんども「帰ろう」と思いつつ実行に移せないでいる中
サトルはずっと机のすみに足をのっけ行儀悪く座りながら本を読んでいた。
「あいつさぁ、飛べるじゃん」
唐突に発せられた言葉。
トモは慌てて頷いた。
「俺はそこに感動した訳よ」
「…はぁ」
「でも全然訳わかんねぇんだよな
よくいきなり怒るし」
それは確かに頷ける。
「まあ古い付き合いだけど?
部活とかでもなー色々あったしなー…」
呟くサトル。
そのときはっとしたように目を見開いた。
「トモ」
声をかけられる。
立ち上がったサトルと目を合わせるために顔を上げる。
サトルは息を吸いこみ、緊張したように言った。
「迎えにいこう」
(2003/09/23....haruco)