ORIGIN 4



朝早く、あげられたばかりの校旗を目にしてサトルは目を細めた。

屋上からみるそれは逆光で濃く映り、透けながらはためく。

踊るように風にまう飾り紐がうとましげだった。

彼女の視点はいったいどこにあるのだろうか…

ふとサトルは思い立つとフェンスに足をかける。

まだ朝も早く登校時間にはずいぶんと時間がある。

級友らが屋上のフェンスに登る自分をみる可能性はほとんどなかった。

委員長が昨日みた、高い世界、新鮮な視野。

器用にフェンスをのぼり一番高いところまで登りつめるが全然たりない。

「こんなんじゃたりない」

サトルは知っていた。

もっと高く。もっと、もっと。

自身が居るところより高い場所を探し見渡してみるとすぐそばに校旗を吊るす棒。

直径10センチはあろうかというその銀色の鉄棒は3メートルほど伸びていた。

これでいい。

あの高さならきっとここより近いから。

全くためらうことなくサトルは鉄棒に手をかける。

しっかりとしがみつき、いも虫のように身を縮め、伸ばしをくりかえし上を目指す。

校旗に手が届き、とりあえずはためく飾り紐をつかまえる。

赤い丈夫なその紐は手に握るとおもったよりもしなやかだった。

周りを見渡す。

空気が冷たいのは朝早いからだろうか

周りが白く見えるのは、なんだか心がうずくような高揚感に見舞われるのは

きっと彼女に近い気がするからだろうか。

ふと、サトルは興味津々下を覗いてみた。

瞬間。

足元をすくわれたように身体はこわばった。

思っていたよりもずっと高い。

遠近感からか恐怖からか必要以上に遠く見える屋上の床

少し強い風が吹けばとたんに揺れ出す棒

相変わらずのんきに揺れる旗。

サトルはぎゅっとしがみついた。

そのとき

「やだ!サトル!?」

聴きなれた声。

大きくあけられた屋上のドアを見れば濃い髪が強い風にばたばたとゆれる。

「!!」

その場を見られた焦りから、サトルは思わず片手を離した。

一気にバランスは崩れ、必死に何かをつかんだ手もむなしく

頭上で切り裂くような音がして宙へとまった。

まるで自分で離れたような勢いだったから何より驚いたのはサトルなのだが

ノゼハは絹を裂くような強烈な悲鳴をあげ、自身もまた右肩からコンクリートへ飛び込み

まるで映画俳優か何かのようにごろごろと床を二転三転してもサトルは意外と冷静だった。

とりあえず

「痛ぇ…」

つぶやいてみると実感が沸いてくる。

とりあえず運のいいことに目だった怪我はなく、骨折等もした様子はなかった。

思っていたより高さはなかったのだろう。

しかしこれが屋上ほどの広さがなければ、一気に建物からはずれ地にたたきつけられていただろう。

気味の悪いオブジェと化した自らを想像し、サトルは首を強く振った。

やっと冷静になってきて顔をあがる。

パンッ

やっとまともになってきた視野が再び冷静になって捕らえたのは

顔を真っ赤にして怒るノゼハの顔だった。

「ブァ…!!!!」

「いて」

「カ!」

思いっきり間をためていって来るがとりあえずサトルにとってははられたばかりの頬が痛い。

きっと赤くはれ上がっているだろう。

「何やってんの!」

「…修行?」

「バカ!危ないじゃない!!」

「だって」

「だってじゃない!何子供みたいなこといってるの!?」

そういう自分こそ子供ではないか。

サトルは冷ややかな目を向け、ゆっくりと立ちあがった。

「だってお前にとってはいつもあれぐらいが普通なんだろ?」

「は?」

激しく眉を引きつらせにらんでくるノゼハ。

サトルは冷静に続けた。

「だから。あのぐらいの高さ、お前にとっては普通だろ?」

「…何がいいたいの」

「別に。

 ただどんなもんかな、と思って」

バカ、そう言おうとして間をためているのがわかる。

しかしぶたれると思い顔をかばった腕にはなんの反応もなかった。

つぶった瞳をゆっくりと開く。

ノゼハはなんとも情けない顔をしていた。

「そんな理由であんな危ない事したの?」

泣きそうな、悲しそうな、呆れたようなそんな顔。

これは委員長もおなじことをやっていたとしったら倒れるな、とサトルは思った。

「死んじゃったらどうするの」

「死なねぇよ」

「バカ」

バツが悪そうにノゼハはいうとふわりと地を蹴りフェンスへと腰掛ける。

「こんな視線、いらないのに」

「……」

「何でそんな目でみるの」

サトル自身にも自分がどんな目をしているのか想像つかない。

しかしひどく険悪な目をしているのだろう、ノゼハは相変わらず変な顔で見返していた。

「飛んでるとこ、久しぶりに見た」

「そう?ここのところ…飛ばされること、は多かったけど?」

自嘲。

「ねえサトル、もうだめだよ、疲れちゃった。無理かも」

ゆっくりと視線を伏せる。

まだ無理じゃないのに、まだ大丈夫なのに。

しかしかける言葉など見つからない。

先ほどまでの勢いとはうってかわって一気に元気のなくなったノゼハをみてサトルは泣きたくなった。

「なんかね、面倒くさくなっちゃって

 周りに寄ってくる子とか、視線とかも。

 …こんなの性じゃないのにな、なんでだろうね」

泣きそうな顔をしながらノゼハはゆっくりと地におりる。

サトルの前に立つと下を向いた。

どうしよう。

きっと彼女は言葉を待っているのに。

慰めとか、そんなことばじゃなくて、もっと、こう、暖かいもの。

どうしたらいいかわからずサトルはポケットに手をつっこんだり、髪の毛を直したり

意味のない行為ばかりをする。

するとふと手の中のそれに気づいた。

いまは少しでも彼女にとどまって欲しいから。

「これ!」

サトルが大きな声でいうとノゼハは顔をあげた。

「?」

「これやるから、もすこし頑張れ」

きっと情けない顔だろうがとにかく必死で言う。

顔が熱い、差し出した手もまた熱かった。

ゆっくりと、ノゼハは差し出された手の中のそれを受け取る。

赤い紐。

見たことのないようなあるような、少し立派なその紐は繊細でしなやかだった。

「ほら、覚えてるだろ?部活つくっちまおうか!ってやつ。

 あれあれ。

 ずっとな、ユウと話し進めててな。

 お前にはちゃんと話し固まるまで内緒!ってな感じだったけどまあいいや。

 のんびり部屋に入り浸れる部活で楽しく過ごすがモットーみたいな、そんなの

 な!いいだろ!?まずは俺と、ユウと、んでもってお前。

 絶対入れよ。もう作るんだからな!

 おまえほかんとこ入るなよ!かけもちでもなんでもいいからとりあえずうち入れよ!」

するすると口をついて出る言葉。

確かにユウと話していたのは事実だが、とりあえず当分は教師側に受け入れてもらえない案だった。

しかしこの際かまうものか。

沈黙になる瞬間を恐れすごい勢いでまくし立てる。

きょとんとしたノゼハだったがすぐに笑う。

今まで見てきた、懐かしい笑顔。

その瞬間、ずっと背中にしがみついていた重さが一気にとれた。

救われたような、そんな感じ。

「ありがとう」

遠慮がちに、ゆっくりと笑う。

一本飾り紐の減った校旗が、頭上でのんきにはたはたと揺れた。



とりあえず憑き物が落ちたように本性を目覚めさせたノゼハは

その日の朝からさっそくとりまいてきた生徒十数人を相手に

悪口雑言をまじえつつ「ウザい」だの「失せろ」だのと叫んだあげく

その中の五人を気迫で泣かし

教室に入ったとたん自席から鼻につく高い声で笑って飛べだのと抜かす例の女子生徒を見かけると

席へかけより笑いかけた後机を蹴り飛ばし思いの丈をかまし

さらに一歩引いた様子で何か言いたげな教師に呼び出されればその件に触れられるだけで勝手にキレて

担任に押しとどめられるほどの気迫で盛大に抗議し

悪意なれ、興味なれ、とにかく背後から落とそうとする気配あらば

即座に見事なまでのまわし蹴りを披露した。

…もっとも誤認が3割ほど出たが。

それでも大きな問題にもならず、さしたる被害にも遭わなかったのは

相変わらずそばに寄ってくるサトルやユウ、委員長を含めた大半の生徒と、ノゼハの見事なまでの事後処理のおかげだった。

もとから言いたい事を言い、物事ははっきりくっきり後腐れなく。

そういうタイプだったノゼハは事がすめば半ば嫌味たらしくではあったものの

泣かした相手にも普通に接したし、いちおうやりすぎたと感じた場合自宅までご丁寧に手作りプリンを届けに言った。

ちなみに教師陣に関しては担任の体育教師が一役買った。

思い立ったらすぐ行動。

サトルに紐をもらってすぐに担任の目の前で飛んでみせ、思いのたけをぶつけ、理解して欲しいと熱弁した。

これはなかなかに演技力のたまものである。



とにかくこれを一週間続けた結果事態は意外な事に何事もなかったかのように収束した。

変わったことといえば校内をなぜか飛びまわる女子生徒がでたことと

校旗がいつのまにか破損、修理されていたこと

例の女性生徒がノゼハとかなり親しい中になったこと

そして謎の部活が発足しつつあること



ごくささいなことではあるが、一人の女子生徒が髪型を変えた事。









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で・け・たー!!!

できたよ!ORIGIN。

なんとも好き勝手やったお話となりました。

いやー楽しいの何の。

サトルに紐をもらった事で随分ノゼハふっきれたようです(笑)

なんだろう、ダメだな、ってすごく思いこんでても

なんかこう「居てくれてる」って再認識するだけですごく頑張れる事ってあるじゃないですか

そんなかんじ。

ノゼハもともとラスト10行強のような性格なので(笑)ゴリ押しタイプ。

っていうか強引だ。しきりたがりなどと陰口を叩かれるも結果でやりかえそう、と。

お友達は多そうですね。

ふふふ。



無理やりなところもありますが

ESPYの思い出話しにあたるこれは今回でおしまいになります。

気が向いたら、またこれ系のお話でも書こうかな?

そのときは、どうかよろしくお願い致します。











(2003/11/30....haruco)