ORIGIN 3



見慣れたその顔はずいぶんと険しくて

その向こうに見えたユウの顔が菩薩のようにみえたほどだ。

「…何よ…」

そういってノゼハはサトルを押しのける。

憮然とした態度でサトルはノゼハをにらみつづけた。

「お前なぁ」

「うるさいなぁ、もう。

 いわなくたってわかります!

 ウダウダ言わなくて結構!十分間に合ってます!

 どいてよう!」

軽く流しさっさとユウのいるあたりまで行こうとしてるのにどいてくれない。

ノゼハは強くサトルを睨み付けようと顔をあげる。

そこで、とまる。

あまりに変な顔をしていたからだ。

見慣れたその顔は見慣れない変な顔をしている。

なんだろう、困ったような、さびしそうな、悲しそうな、まあとにかくそういったような表情。

「なにその顔!」

一声笑うとノゼハは屋上の中央まで一気に駆け出す。

「おまえ…!」

急に顔を赤くしておいかけてくるサトルをノゼハは笑いながらひらりとかわした。



よくなるかと思われた状況はしかし一向に良くならなかった。

例の女子生徒をはじめとした少数の生徒が悪びれもなく実験に乗り出したからだ。

信じてなど当然いないから怪我をしない程度の高さのところでほんの少し背を押す。

そうするとここのところ警戒しっぱなしのノゼハは思わず飛んでしまう。

そんなことが日に数回。

それが一週間。

週末には気疲れしたノゼハが見れた。

「あの…ノゼハちゃん…」

ゆっくりと顔を上げれば委員長。

ああ、と小さくいうとノゼハはまた肩を落とし顔をひざに埋めた。

「大丈夫?」

「…もうすっかりうわさになっちゃって、馬鹿みたいに飛んじゃうんだよねぇ…

 信じない人の方が少なくなっちゃったんじゃないかってぐらい。

 気をつけてはいるんだけど…」

「あの、…今度からは階段とかさ、いっしょに歩くから…」

「先生に呼び出された」

低い声。

顔をうずめたままノゼハはいった。

きゅ、と委員長は手を強く握る。

ノゼハはもちろん教師が怖いわけでもない。

教師までも意識する自体になった事が、なぜだかひどく悲しく思えた。

「いつ」

「今日の昼。

 担任の先生と、校長さんと、あと部屋にお母さんとかいたけど」

「呼び出し!?」

「知らない。

 なんか噂になってるけどどうなんだ、見たいなこと言われた」

「それで…どうしたの?」

沈黙。

なぜかはわからないが委員長は飛んで見せたのだと確信した。

「お母さんは目、しっかり開いててくれたけど…

 まあ、別に?なるべく静かにしてるように、っていわれて後はさっさと出されちゃった」

なんだか掃いて捨てるようなノゼハの口調。

どんなことも面倒くさくなってしまっているようだった。

「祐川君はなんて?」

「?

 なんでサトルが出てくるの?」

まるでわからないとでもいうようにノゼハは言った。

しかし委員長はしつこく尋ねる。

彼女は自分のことで手一杯だから気にかけてもいないだろうが

委員長はここ数日付かず離れず妙に落ち着かずに付近を通るサトルを何度も見つけている。

気にかけているのはわかっているのに特に動きのないサトルが気がかりでしょうがなかった。

「別に?

 …とりあえず最近いっしょには帰るかな。

 なんかみんな騒ぐじゃない?

 時々面倒くさくなってわざと飛んじゃうの、実は」

ひっそりと、疎ましげなまなざしで自身の足を見つめてノゼハはいった。

「え?」

「もうね、飛んで見せてもいいや、ってなっちゃった。

 さすがに昔みたいに変っていわれて下がってるほどあたしも優しくないしね。

 見たいっていってるから見せてやってるんじゃないの、別に悪くないし、みたいな。

 周りは…騒ぐけど…なんかもう面倒くさくって」

かける言葉が見つからず委員長は小さく元気出して、という。

いつものノゼハだったら苦笑いのひとつも返しただろうに

妙に病んだような視線のノゼハは気だるげな姿勢のまま立ち上がると何もいわずに去っていってしまった。

なんだか悲しくなってしまって委員長は屋上で、一人フェンスによりかかる。

妙に落ち着く場所だとあたりを見回してみるとそこはノゼハが飛んだ場所。

少しだけ勇気をだしてフェンスに足をかけた。

キシッ

きつく食い込む音を聞きながらもう左足を上へと上げる。

床は確かに近くにあるのに神経質に硬い動作でしっかりとフェンスにしがみつく体を無理やり押し上げ

上体はフェンスの上、何もない空を見る。

少しだけ緊張する体、冷たい風。

息を呑むような風景。

見慣れた景色は少しだけ新鮮味を帯び、何の隔たりもなくみる町並みは広く思えた。

そのとき。

「おい!」

慌てふためいた声。

委員長は慌てて後ろを振り向いた。



「なんだよ、脅かすなよ」

言ったのはサトル。

急かされしかしゆっくりと屋上の床に降り立った委員長は申し訳なさそうに下をむいた。

「ごめんね、脅かして。

 ちょっとどんな景色が見えるのかなーと思って」

「・・・・・・いい景色だった?」

「うん。とっても。

 これが、彼女の視線だってわかった感じ」

束縛のない景色。

委員長はなんだか嬉しくなって顔を密かにほころばせた。

「で、どうしたの祐川君」

「あ、ああ…ノゼハいるかな、と思ってきたんだけど」

「ノゼハちゃんとさっきまで話してたんだけどね…とっても疲れてるみたい」

知ってる、と小さくサトルはため息をついた。

否応にも知れるというもの。

目に付く姿は日に日に青白くなっていき、見るからに元気がなくなっている。

声をかけても疎ましげな口調で大して話そうともしない。

機嫌の悪いときは得てしてそうだったがこうにも長いと取り付く島もなかった。

「どうしたもんだかな」

「騒ぎが収まっても大して前進しないだろうね…」

「…飛ばなくなったらどうしよう」

「え?」

「疲れて飛ばなくなったらどうしようって。

 だってほら、確かにあいつ自身がノゼハではあるけれど

 飛ばなくなったら今のノゼハじゃないだろう?

 飛べなくなったらじゃないんだ、飛ばなくなったら。

 そうしたらきっともう手の施しようがないくらい嫌になってると思うんだ」

「…嫌に?何が?」

「いろんなもの。

 人とか、言葉とか、友達とかも、あとは関係も、わからないけど家族とか。…オレとか」

ためらうような口調。

委員長はなぜか泣きたい気持ちになった。

「どうにかしてあげたいね」

沈黙。

彼女には今世界はどのように映っているだろう。

疎ましげに見える世界でも、飛べる空はまだあるのに。









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最初は明るくなるような勢いだったのに

なんとなくだんだん気落ちなノゼハ…。

わーん。なんだか悲しくなってきた。



気落ちする流れがあまりに唐突で突飛なような気がしますが

あんまりうだうだ書く気にもなれなくて

書かなきゃわからないんだけど書けなくて。

だめだなぁ、察していただけるとうれしいです。



なんかもういやになっちゃうときってあるじゃないですか

人それぞれ、いろいろ理由はあるけれど。

でもそんなとき、きっとそういうとき私は気づいていないけどもしかしたら誰か気にかけてくれてる。

一瞬でも心配してくれたなら

あとで悪かったな、って思う。なんとなく、だけれど。

悪い、というのも変な話だけど気を使わせて申し訳ない、とか。

たいしたことじゃなかったのに、とか色々。

そしてそうしてくれる優しさがとってもうれしい。

持ちつ持たれつというけれどこういのってすごく、そう。

誰かを心配する気持ち。

すごく優しくて気づきにくい。

とっても大事なのに。

気づければもっと好きになれるのかもねぇ

自分とか、いろんなこと。

ノゼハはきっと今いろんなことが嫌い。

自分も、周りも。

何でかわかんないし、きっと何でこうなったのか、何が悪いのか、ぜんぜん分からない。

だれか。



どうかノゼハがにっこり笑えますように。

どうか心のそこから笑えますように。











(2003/11/18....haruco)