ORIGIN 2



ゆっくりと、閉じた目を開いて

そこで顔は凍りついた。



「あ…」

フェンスの向こうには地に向かって落ちることも無く宙に浮くノゼハの姿。

委員長と、ユウと。

二人は目を丸くして、すこし顔をこわばらせながら

ノゼハが屋上の床に足をつけるまでを見届けた。

「…っと…」

小さく言って身の回りを確認し

飛んでいったプリントを片手に強く握りながら

ノゼハ上目遣いで、恐る恐る二人をみた。

「あの…」

「おい」

何か言いかけたノゼハの言葉を遮ったのはサトル。

「あ…」

目の前に立ちはだかるように言ったサトルもまた顔をこわばらせていた。

もっとも二人とは違う意味ではあったが

「お前何やってんだよ!」

「だって…」

「だってじゃねぇよ!どこだと思ってんだよ!ここ!

 っつかたかが紙一枚で…!」

「だって大事な紙…」

「知らねぇ!

 なんだよ、ったく…おい、お前ら」

急にサトルは振り返ると二人を見つめる。

二人は我に返ったようにびくつくとゆっくりとサトルに視線をあわせた。

「今の、いうなよ」

「いや…っていうか」

「っつか聞くな」

「……」

サトルが有無を言わせず言うものだから困ったように二人は目をあわせた。

「サトル、そんなきつい言い方よくない。

 お願いします。言わないで」

ノゼハあたりを少しだけ見渡して、ゆっくりと頭をさげた。

「いや、そんなノゼハ…いいから頭上げなって、言わない言わない。

 驚いたけど…大丈夫だって。

 な?」

ユウはノゼハに慌てていった後に委員長を見る。

委員長はとても困ったように見上げると静かにうなづいた。

幸いなのはここに他の生徒がいなかったことだ。

ノゼハゆっくりと頭をあげた。

「いつか…きかれると思うから先に言うね。

 飛べる…っていうのかな。これは…その、生まれつきで…ね。

 驚いたとは思うんだ。

 でもほら、他はなにも普通だし」

少し泣きそうな顔をしながらノゼハはいう。

実際こうして普通の友達に見られることはまれだったが、過去にもある

その結果どうなるかも、大体承知だった。

だから、一応、お願いしてみる。

「お願いだから、ね?」

ゆっくりと頭を下げたノゼハの頭に

静かに撫でる手が置かれた。



数日間、音沙汰も無く

かといって特に誰と話したり騒いだりということもなくノゼハはすごす。

サトルはばれて騒ぎになるのではないかと気が気ではなかったが

ユウは毛頭話すつもりが無い事は明確だったし、委員長もそんなに口が軽いほうではない事がしれ、すこし落ち着いた。

昼休み。

昼食を食べ、教室でノゼハが本を読んでいるときだった。

「だめ!」

少し大きな声が教室に響く。

話し声でいっぱいの教室だったためそんなには目立たずその声に振り返るものはいなかったが

ノゼハは少し本から目をあげた。

教室の奥では必死に女子生徒の袖をひっぱる委員長の姿。

袖をひっぱられる女子生徒は確か委員長と仲の良い、割と目立った子だった。

肩まである艶やかな髪をさらりと流し

長いまつげのある大きな瞳を揺らしながら彼女はぱちぱちと瞬きをする。

そでをつかむ委員長を「いいからいいから」と笑ってやりすごすと

むりやり前進してノゼハの方へやってきた。

なんだろう、この生徒と特に付き合いなどもった覚えは無い。

少し目を見開いて、ノゼハは女子生徒みつめた。

「柳田さーん」

「何?」

「あのねー」

少し鼻につく、もったえぶったような甘ったるい声で女子生徒はノゼハの前の席に座ると

横を見る形でノゼハの机にひじをつき、ノゼハの顔面で小さく言った。

「空飛べるの?本当?」

鳥肌がたつ。

頭が真っ白になった気がした。

女子生徒の肩越しに委員長をみると泣きそうな顔をした委員長がいた。

どういうことだろうか

「何それ」

とりあえずしらをきってみる。

「そんなこと言って〜

 マミから聞いたって言わないでね?」

そんな事を聞かなくても一目瞭然だ。

ノゼハため息をついた。

うっかり口が滑ったのだろうか。

「あの子がプリント飛ばしたとき取ったんでしょ?

 飛んで!見せてよ〜」

どうせ信じてなどいないくせに

ノゼハはまたため息をついた。

「馬鹿な事言わないでよ

 なんで飛べるのよ、私が

 そりゃちょっと高く飛んだりはしたけどそんな大げさなものじゃないわ」

少しだけ口調を強くして言うと女子生徒は眉をつりあげた。

つまらなそうに口を尖らせる。

ノゼハの口調に機嫌を悪くしたのか小さく何かもらすときびすを返した。

女子生徒がさった後にすぐに委員長がやってくる。

「ご、ごめんなさい」

ノゼハの横で頭を下げたまま委員長は顔をあげない。

さきほどの女子生徒が肩を怒らせながら教室を出たのを見とめてノゼハは視線だけ委員長の方へむけた。

「……顔上げて」

「…あの…本当にごめんね。

 サキと話してて体育祭の話しになってプリントのメンバー表が飛びあがっちゃってって話になって…

 あんまりその話に食いついてくるからつい、うっかり…」

こちらはうっかりで大変立場が危うくなるようなところだったのだが…

もとはといえばあの場で飛んでしまったノゼハが悪い。

この人の良い委員長がこんな顔をしたままでは気分がわるかった。

仕方無しに小さく笑って言う。

「もう、いいよ。

 大丈夫。気を遣わせてごめんね?

 ……まあこんなこともう無いと嬉しいんだけど?」

にっこり笑って、少しだけ恨めしげに委員長をみつめると

委員長は涙目な顔を少しだけほころばせてうなづいた。



帰り。

その日はたまたまユウと共に音楽部の見学にいったのだが

結局そこにあったピアノやドラムで遊び、大して部活にもならぬ部活を見て帰るだけだった。

「ユウのピアノさばき見事だったねぇ」

とんとん、と靴をはく。

ノゼハは笑っていった。

「習ってたの、この前まで。

 なんかねー親父がそういうの好きで。そのくせクラシックっていうの?ああいうのには妙な偏見でいっぱいで

 なぜか友達のジャズやってる人連れてきて教えてもらってたわけよ」

「そうね〜堅そうな印象はあるものね

 ユウのやつはなんか好き〜ノリノリって感じ。

 それにあわせてドラム叩いてたあたしって何?

 普通逆だよね」

結局その場にあったドラムセットの前に腰掛けて遊んでみれば妙に楽しくなる。

格好良くなんて出来なかったが裏打ちを理解してからはなかなか様になるセッション具合だった。

「結局そこにいた先輩とかみんな入ってきちゃうしさ〜

 楽しかったけどまあ部活って感じじゃなかったよね」

「まあね。大会前はきちんと歌うらしいけど。

 あれだけ人数が多いと疲れちゃいそう。

 あたしはパスかな」

笑って言うノゼハにユウは笑ってうなずいた。

二人とも靴を履き終わったのを確認して歩き出す。

下駄箱のあるフロアを出て並んで階段を降りる。

この学校は二階に階段を置き、一階は全て教員用と保健室などに当てられていた。

夕陽を目の前にゆっくりと階段を降りていく。

「柳田さーん」

そのときノゼハは背に声をかけられた。

残りは7段。

少ないとは言えないがたいした高さでもない。

ゆっくりと振り向いたのが災いしたかそのとき声の主が軽く背に触れたのにノゼハはとても驚いた。

「きゃっ」

「えっやだっうそ…!」

二つの声。

響く女の声に先を行くユウが振り返ったとき。

そこには斜め前に向かって身体を倒すノゼハがいた。





「やだ…うそでしょ?」

女子生徒…昼にもあった委員長の友達は軽く息をつく。

手を口にあて必死に平静を保つがその目は大きく見開いていた。

「……」

ばつが悪そうにノゼハは階段の最下段で下を向く。

間違い無い、見られた。

咄嗟だった。

どういったものか、考えていたときだった。

「何やってんだよ!」

ユウが大きな声で女子生徒に詰め寄る。

きっとノゼハが階段から落とされたと感じたのだろう。

「何ってなによ…落とそうとなんてぜんぜんしてないんだから!

 ただちょっと声かけて、背中に手でとんって叩いただけよ。

 あのね、いくらなんでも階段で人を突き飛ばすなんてことしないんだから」

相変わらず鼻につく高い声。

ノゼハはこの女子生徒、というよりこの声が嫌いだったのだが

ため息をついて上を見上げた。

ユウが強く女子生徒をにらむ。

「やめなよ、ユウ。

 本当に押されたんじゃないし。

 驚いて前のほうに倒れたけど…」

あれは倒れたと言えるようなものではなかったけど

小さくノゼハ付け足した。

「焦った〜!

 でもまあ怪我も無いしね。

 っていうか本当だったんだ!すご〜い!

 この目で見ちゃった!すごいすごい!

 もう一回やってよ!」

「おい」

「ユウ…やめよ。

 もう行こう?」

後ろで若干興奮気味の女子生徒を尻目に、ノゼハは前に歩き出す。

心臓は強く鳴り、頭はほとんど白かった。

あの少女はどう思っただろうか。

すごい。それだけ?

ノゼハは下を向き強く目を瞑る。

失態続きの自分を強く呪った。





翌日。

予想できた事ではあったがノゼハは最悪な思いをする。

あたりで小さく交わされる言葉。

悪びれも無く近くにやってくる例の女子生徒からの言葉。

遠巻きに見る生徒。

下らない噂とその人物をため息ながらにみつめる教師。

非難中傷がないだけましだったかもしれない

何せ根も葉もない噂として出回っていたし新入生の中でノゼハは人が良いと通っていて友達もそれなりに多かったから。

午後になれば相手にするのも馬鹿らしくなったのか幾人かの生徒はいつも通り話し掛けてくる。

その中にまさしくあの女子生徒も混ざっていたのだが…

「柳田さーん」

また鼻につくあの声。

ノゼハは大きくため息を付いて、今度こそは強くにらみつけた。

「うせろ」

「やだ怖いー

 何?怒ってる?

 良いじゃないの!すごいんだから〜」

軽く言ってのける。

それなりの悪意と嫌悪は通じないようだ。

鈍い上に根っから軽いようだ…ノゼハはあきれたように下を向いた。

「言っちゃだめだった?まあいいよね。

 本当に感動しちゃった!

 カメラとか持ってれば良かったのに〜」

相手にするのに疲れてノゼハは近くを心配げにうろうろしていた委員長のセーラー服をひっぱると

そのまま廊下へと無理やり引きずり姿を消した。

「あの…元はと言えば…私が…ごめんなさい。本当に…」

ひきずられながら委員長は謝りつづける。

いい加減聞き飽きたノゼハは屋上の扉の前で手を離し嫌味たっぷりにため息をついた。

「…ったく。もういいって言ったじゃないの。

 あんまウジウジしてっと殴るわよ?」

あまりにもその目が本気だったので

委員長は涙目なのはそのままに小さくうなずく。

「っつかあの女マジむかつくー。

 どういう性格してんだか」

「サキは…あんまり人の気持ちとか深く読まないから…

 あの、柳田さんのこと嫌いとか、嫌がる事しようって思ってるんじゃないんだよ?

 えっと…なんていうの?凄いと思ったから…」

それはわかる。

というか目に見えて態度に出過ぎている。

しかしあまりに過剰でテンションの高い行動でノゼハは頭が痛かった。

「ったく…まあいいわ。

 マミが悪いんじゃないものね…ごめん、大事な子の嫌味なんか聞かされて

 良い気分じゃないわよね」

「多分、サキが悪いから良いの」

苦笑いする。

ああなぜあの女とこんな理解のある子が…

ノゼハは思い、さらにいつのまにか委員長…高田真美と随分と親しくなった事におかしくなった。

とりあえず教室にいるよりは屋上の方が気分が良い…

そう思ってノブに手をかけ開ける。

「うわ…」

ひらいた瞬間に出会った凶悪な顔にノゼハは辟易した。









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今回もやりました〜

いやなんとも。

鼻につく声の大抵の事を自分に良く解釈する子サキちゃん。

ふふふ〜

ノゼハの事は嫌いじゃなくても、きっと大して好きじゃないだろう。

本当に突き落とそうとなんかしてない…はず?

なんだか描いていてどんどんはまっていってしまっています。

人を動かすって難しい…

でも終わりが見えるからこそ、頑張ってみたいと思います。











(2003/10/31....haruco)