足跡篇15 心に残る声
「ねえ、腕、どうしたの…?」
少しおどおどとスバルは尋ねる。
ハヤテはというと慌てて隠した右腕を抱え込んだ。
急いで寝室から着の身着のまま、マントだけ引っつかんで出てきたのだ
いつもはしている包帯も、グローブもそこにはない。
隠せば隠すほどスバルはいぶかしがり
自身もまた妙な不安に襲われるものだからハヤテは言葉をなくしてたちすくんだ。
しばらくの沈黙。
やがてそれを破ったのはハヤテだった。
「…昔、ちょっと怪我して。
それの、傷があるだけだよ」
「…それだけ?」
ハヤテは頷く。
スバルが催促するように両手を伸ばすのでそこへゆっくりと右手を伸ばした。
暗がりのなか、少しばかり輪郭を捉えられる右腕にそっと手を伸ばし
手首を触る。
良く見えないが触ってみると確かに、三本ばかりの長い爪あとのような、でこぼこした傷があった。
想像もしていなかった大きさに一瞬息がつまる。
緊張からと思っていたその息詰まりが、それだけではなく、腕から来る妙な感覚からだと気づくには時間がかかった。
「…あんま触んないほうがいいと思うよ?」
遠慮がちに上から響く声。
右腕を掴んだまま座り込んだスバルはそっと上を見上げた。
腕は離さず、むしろ強く握る。
「…どうして?」
「…どうしてって、気分悪くねぇ?
っていうか呪われてるんじゃないかなーとか思うし」
「呪い?」
「……」
しまったとばかりにハヤテは口を抑える。
しかしスバルは聞かないでいるつもりは毛頭ないらしく
ハヤテの腕をさらにきつく握った。
再度触ってみてもただの傷跡のように見える。
大きさこそ大きいものの感触は少し硬い傷跡の肌。
大しておかしい所など無かった。
「どういうこと?」
「……」
「……言いたくない?」
別に、と小さく濁す。
ハヤテは大きく息をついた。
「…たいしたことじゃないんだ。
ただ…」
「…?」
「完治しないんだ、いつまでたっても」
スバルは少しだけ、目を見開いた。
「怪我をしたのが七つの頃かな?
傷が今でも傷むんだよ、夜とかね。
それと…消えないんだ」
「傷跡が?」
首を振る。
これだけ大きな傷ともなれば消えないのは仕方が無い。
ハヤテはそっと腕を引くと自分で強く握り締めた。
「…今は暗いから見えないだろうけど…変な、模様みたいな、痣みたいな。
医者には見せたんだけど問題ないって言われて。
実際確かに変なところもないんだけど気持ち悪いだろー?
傷が出来たとき意識あったかどうかも覚えてないし」
「怪我と同時にその模様もできたのかな…」
「いや?
同時って言うか…その辺にいた誰かが…書いたんだと思う」
「書いたぁ?
ハヤテ怪我負ってんでしょ?その前に助けるとかしなかったのかね」
「しらねぇよ」
スバルは再び右腕を取る。
ゆっくりと触ってみると確かに腕には傷以外に何かある。
暗くて目には見えなかったがほんの少し、ひんやりとする何かがある。
「…起動してる?」
「…は?」
「陣じゃないの?これ。
起動してるんだ」
「きどう?」
「働いてるんだよ…何の陣だろう」
覚えのある感覚。
一本の線のように腕に描かれた何かをゆっくりと指でたどっていく。
それは不思議なことにスバルにも覚えのある陣形だった。
「治癒陣だ」
「治癒?怪我を治す模様なの?」
「…そう。
でも、おっそろしくヘタクソ」
「ヘタクソ?」
「きちんと作用してるのが奇跡じゃないの?
汚い…」
「やっぱ綺麗に書いたほうがいいのか?陣って」
「必ずしもそうじゃないけど…力が無ければ綺麗に書かないと失敗するもの。
そういう意味ではすごいね、ちゃんと作動してるの。
多分これは…うん…?何で書いてあるんだろ…」
肌に染み込むように描かれた陣は暗くてよく見えない。
スバルは何でかかれているか探るのをやめた。
「へぇ、で?いつも隠してたわけだ」
「だって俺だっていつも見ていたくねぇもん」
「模様?」
「模様はいいよ、別に。
なんか懐かしくなるし、治癒するためにだれか書いてくれたんだろ?いいもんじゃん。
傷跡だよ、なんか爪みたいな、やだなぁ…」
スバルは苦笑いした。
「怪我してる上から陣を書いてるって事は起動したの奇跡だよね。
薄いもので書いたら血とかでぬぐわれちゃうもの」
「ぬぐう?」
「消えちゃうでしょ?例えば治精液だとしても血の方が濃いんだから。
……もしかして血で書いてあるんじゃないの?その陣」
スバルは暗がりの中、にやりと笑った。
「んだよ!気味悪い事いうなよ…!
これは多分腕に怪我して瀕死の俺を助けてくれた絶世の美女との運命の絆でだなぁ」
「女の人なの?」
「知らね。
別にいいんだよ!想像なんだし」
「ま、手のこと初めて知ったわけだし、少しはより仲良くなれたってことかしら?うちらも」
「さあ?」
ハヤテはにっこりと笑って口先を尖らせた。
ちぇっといってスバルは立ち上がる。
掴んだままのハヤテの右腕をぎゅっと掴み引っ張った。
「ほら、降りるよ」
「ったく、誰のせいでここまで登る羽目になったと思ってんだ」
「うっさいなー。
いいじゃない、今日は月が綺麗だよ?」
言われてみれば、なかなかに白い月。
ハヤテは右腕の傷を自分でみて、ほんの少し、月夜に浮かぶ模様をみた。
もしもこれを書いた人にあったら何と言おうか
ぼんやりと思う。
「傷がどうして出来たか、お前きかねぇのな」
「聞かれたいの?」
「別に、そうじゃねえけど。
たいしたことじゃねえもん」
ハヤテが小さく言うと
なんだ、とスバルは笑っていった。
「ハヤテが言いたくなったら言ってくれればいいよ。
うちも話したい時に話したい事を話すもの」
意地悪く言った声だが妙に心にしっくりとくる。
じゃあ、そうさせてもらうとしよう。
ユミレオが下で鳴く。
早く 降りて
その声が聞こえたのかどうか、二人はそろって笑い、塔を降りた。
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足跡篇最終話ー心に残る声。
わけわかんないタイトルですみません。
ハヤテの傷はずっと前から考えていたことで
なんだろうねえ、隠した割に大した事じゃないようなどうなんだろう…
ちなみにグローブとかしてるのは一見してためらい傷のようにも見えてしまうから…かな?
多分それもだと思います。
なんかちょっと不思議な気持ちもあって、包帯とか。
なんで怪我したんだろうね、私にもよくわかりません。(コラ)
CAMOを通じて読んでくださって、本当にありがとうございます。
ずっと前から最終話はスバルかハヤテの話にしようとおもっていました。
結果的に…どっちになったのかしら?
うん、でも。
書いていてすごくすごく楽しかったです。
これからもどうか、見守ってやってください。
では、足跡篇見つめてくださって、ありがとうございました。
(2003/12/31...haruco)