足跡篇14 花の残り香



「ったく、何すんだよ」

「そんなに赤くならなくったっていいじゃないのさ〜」

ケタケタと笑うスバルを尻目にハヤテは頭についた花びらをバタバタと落とした。

頭の上にそっと甘い香りが残った。

目が覚めると頭の上には愛らしい花輪が乗り

それがなんとも自分には不釣合いに可愛らしく、しかもスバルがケタケタと笑うものだから

ムキになってはたく。

そうするとはらはらと散っていく花びらをみてスバルは少し、残念そうな顔をした。

「なんだよ…」

「もったいないのー。折角綺麗だったのに」

少し意地悪く、少し悲しげにいうものだから

ハヤテは行き場をなくしたように小さく何かを呟いてきびすを返した。

スバルは少し間を置いてから、ゆっくり笑って後を追いかけた。



月夜。

その晩宿をとった村は少し小高い丘の上にあり

村が一望できた。

主人が時計の守を勤めているからだろう、すぐ近くに時計塔がある。

窓から入ってくる月明かりをみてハヤテは布団の中でもぞりと動くと

ふと感じた寒気に身を縮ませた。

「さむ…」

からんとした部屋に自分の声だけが響く。

なんとなく目が冴え、月明かりが眼に染みた。

「……」

窓の外を見ると時計塔が月を前に大きく構えている。

昼間はそう大きく見えなかったが

夜の力か、なんとはなしに人を寄せ付けがたくする高さが見えた。

「…?」

ハヤテはふと、何かをみつける。

時計塔に揺れる何か。

白く輝く、銀のような髪。

月夜に、闇夜にそまる薄い肌。

見慣れた横顔……

「あいつ何やってんだ!?」

時計塔のてっぺん、鐘よりもさらに上

屋上のような狭い所に数本の柱を組み合わせ組まれた荒い天井のような物の上に

すっくと立ち、月夜を見上げる人影…

ハヤテは布団から出てもう一度、確認すると慌ててマントを引っつかみ

寝巻き替わりの軽いインナーのまま飛び出した。

「来い、ユミレオ!」

聞こえるか聞こえないかそれほど小さな声でハヤテは走りながら呼んだ。

ちょうど隣のスバルの部屋の前で呼んだためユミレオが起き上がる音がする。



聞こえてきそうなユミレオの問いに答えるようにハヤテは小さく呟いた

「なんか知んねぇけどスバルが高いとこ登ってんだよ…!」

時計塔は人が修理の際に登れるようになっているとはいえ普通村の中では一番高い建物となる。

大の大人の身の丈を五人足してやっと届くか、そのぐらいの高さ。

もちろん落ちてただで済むはずが無い。

かなり不安定な足場な事が見て取れたため、ハヤテは余計急ぎ、外へ出た。

「おい!」

「?」

やっと時計塔のふもとまでたどり着き、ハヤテは荒い息のまま上をみあげ大きく叫んだ。

人影はすぐに気づいたように下を見下ろしてくる。

逆光のため、月の光に照らされるその髪は銀色に光った。

「…ハヤテ?」

「なにやってんだよ!危ないだろ!?」

「…そう?」

「馬鹿!危ねえんだよ!馬鹿!

 さっさと降りて来い!」

「ハヤテが登ってきてよ」

「あ?」

「おきてきたんなら月でも見ようよ、いい眺めだよ?」

寝ぼけているような、なんともおぼつかない声。

ハヤテは文句をいおうとしたが

寝ぼけているなら登って連れ戻したほうが早いと諦めハヤテは塔の内部の階段を上りだした。

とん、とん、とん

暗い石造りの建物の中で自分の履き慣らした靴の音だけが響く。

時々壁に開けられた窓のような穴から入る明かりを頼りに、螺旋状の階段を上っていった。

「寒い」

走ってきたからか先ほどまで感じることがなかったが

吹いた風が身にしみる。

早く帰ってあったまって寝よう。

ハヤテはそう思いながら上りつづけた。

「……」

開けたところについたと思ったらそこは時計仕掛けよりもさらに上

報を告げる鐘のあるところだった。

通常ではここが最上階になる。

しかしこの上にスバルがいる。

ハヤテはしかたなしにむき出しになっているフロアの隅

四つの柱のうちの一本に慎重に触れると体重を任せ外に身を乗り出し上を覗き込んだ。

「おい、こっからどうやって登るんだよ…」

「天井の際に手がひっかかるからそこにひっかけて

 一気に腕の力入れれば上に登れるよ」

軽く言ってのける。

確かに言われてみれば四つの柱をまたぐように天井の際になる石畳に手をかければ

上手い具合に引っかかる。

仕方なしに外側に背を向けるようにして両手で外から際をつかむと

腕に力を入れ、懸垂の容量で体を持ち上げた。

「…わ…!」

胸まで持ち上がった時点で必死になって天井…屋根の上に体を乗せる。

完全に建物の外に踊る自身の体をそっとのぞき

ハヤテは慌てて屋根の上に上った。

そこは屋根というよりも屋上である。

石畳でほぼ平らに均された足元からさらに、下の四つの支柱から伸びるように木の柱が四隅にある。

その上にまたがるように組まれたあらい木の傘の部分にスバルはいた。

すぐしたであるここからでもスバルの姿は完璧にみてとれる。

それくらいぞんざいな木の屋根だった。

「ったく…」

また懸垂の容量で、しかし今度は外に身を乗り出さず

荒く組まれた木の傘の隙間に手を突っ込み、無理矢理傘の上へはいずりでた。

「いらっしゃい」

のんびりと立ち、やってきたハヤテを迎えたのはスバル。

ぼんやりと笑って月を再び見上げた。

「…んだよ。さっさと降りるぞ」

疲れきった表情でハヤテがいうとスバルはぼんやりとした表情のままハヤテの頭に手をやった。

「?」

「もったいないの」

「あ?」

「花、頑張って花輪つくったのに」

ああ、昼間のことか。

随分と悲しげにいうのでハヤテは申し訳ない気分になった。

「悪かったって。

 いいから、ここ降りよう?危ねえし」

スバルは聞かない。

相変わらず悲しげに、不機嫌そうにほほを膨らませるとそこにすわりこんだ。

なにもこんな不安定なところで駄々をこねることもないだろうに。

少し寝ぼけているらしいから余計にそうなのだろうが

スバルは感傷的になったように何度もハヤテの方を見た。

「また作ればいいだろー?」

「同じのは二度とできないのー」

「悪かったって。早くおりよう?」

「ハヤテ一人で降りればいい」

「あのなー」

「……一人でいいから」

「ささっともどるぞー」

いい加減疲れたとばかりにハヤテはひざをかくんと木の傘の上につけた。

スバルは口を尖らせるとしばらく考えたように黙り込んだ後胸元にぶら下げた首飾りをはずした。

「?」

「こんなのいらないよ、もう!」

急に力いっぱいひっぱって自身からとったと思うとスバルは大きく腕を振り、

前方へと腕をふった。

「…!」

しかしその中の首飾りが飛ぶことはない。

止められた腕に驚いたようにスバルは上を見た。

「何やってんだよ、高そうなもん投げんじゃねえよ」

逆光だからだろうか、その髪は銀色。

「聞いてる?」

止められた、掴まれた腕を見れば自分よりいくばくか筋っぽく大きい手が力いっぱい掴む。

痛みを感じることも忘れスバルは自分の掌に硬く握られた首飾りを見た。

果たして、腕をもしも振り下ろしたとして

自分はこの首飾りを投げただろうか。

「…おーい」

ハヤテが遠くから呼ぶようなふうに言葉をかける。

スバルは目がさめたように慌てて腕を振り払った。

「捨てないから…大丈夫」

言ってもう一度首にかける。

確かに少し高そうな、見たことも無い石をはめ込んだ銀色の首飾りは一見して高そうだった。

しかしそれ以上の意味をも持ちうる。

スバルは気まずそうにあたりを見渡した後、ハヤテの腕に目をとめた。

「どうしたの?それ」

スバルが腕を指差し

ハヤテがすぐに気づいたように腕を隠したのは

ほぼ同時



いぶかしがるように

スバルはハヤテを見た。















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第14段、花の残り香。

五万打漫画の続きです。お花は結局壊されてしまうみたいです。

タイトルこそ次回と違いますが続き物ー

最後ぐらいちょっとしぶとくてもいいかな、と。

かなり謎な表現が多くて申し訳ない…私も良く分かってないです。

続き物を描こうと思ったときに

劇的に何か暴露されるような、進展するような感じにしようかと思ったんですが

そしたら本編の立つ瀬なしなので

ちょっと地味に足跡篇。

ファイナルへ向け走ります。











(2003/12/25...haruco)