足跡篇12 港の店主
昔から大してこだわりをもたず、そのまま普通に生きてみれば
自然とこんな道を選んでいて、少しだけ勉強した料理をもとに見せを開いている。
知り合いの少年が尋ねてきたのはほんの数日前のことで
今日は客を連れてきた。
二人組みの旅人らしく身なりはとりあえず旅人らしく皮の上着を着ている。
しかしその足元にいたのは見知らぬ生き物だった。
「あれ、何?」
「熊だよ」
こっそりと客をつれてきた少年に聞いてみればそっけない返事。
小さな声でしゃべりあう二人に気づく様子もなく、客は笑いながら席についた。
一人は青年で、年のころなら十七、八。
黒髪黒目のアズマガオ。あまりこのへんではみない顔立ちだった。
椅子に座れば腰につけた連結棒がからからとなる。
もう一人は見たこともないような藤色の髪で同じ色の瞳。
小柄で小さな少女だった。
年の頃なら男と大してかわらないだろう。
白い肌だったが妙にしっかりとした様子から旅なれた印象が伺えた。
こんな仕事も十年も続けてみれば意外と慣れてくるもので
身についたものは経験だけではなく、洞察力といったものまでついてきた。
変に勘ぐる癖までついた上に、それを覆い隠す面までできてしまったのだ。
とにかく二人が順順に注文するのでその料理をつくる。
野菜をたっぷり入れ赤ソーススパに、このへんでよくとれる白沼鳥のドリア。
どちらにも裏庭で育てる香草をいれる。
これのおかげで体内にあまり異常をきたさなくなったのは全くもってありがたいことだった。
「おまちどうさま」
ゆっくりと丁寧に、決してこぼすことのないように器をおく。
少女は笑って礼をいい、青年はだまって受け取るとすぐに黙々と食べ始めた。
その晩なんだかんだで三人は自宅へとまることとなる。
決して大きいとはいえなかったが愛犬以外特に一緒に暮らす家族がいないため
部屋は十分に余っていた。
「おじさん?」
自分のことと気づくまでに少し時間がかかるが振り返る。
夜のベランダ、少し暖かめの今日は外に出てみれば星が良くみれた。
「ああ、どうしたんだい?」
振り返ったところにいたのは少女で手元にはカップを二つもっていた。
「ハットがね、おじさんにもって。コーヒー。
あついから気をつけて」
小さな白い手でそっとカップを渡してくる。
思わず笑みがもれた。
小さく礼を言って一口含んでみれば口の中に広がる苦い香り。
あの少年はどうしてこうも苦く入れるのだろうか。
少女のカップには牛乳が入っているようだった。
「星がよくみれるんだね」
「今日は特にね、きっとこれから冷えてくるからもっとよく見れるようになる」
「うちの実家でもね、すごい綺麗にみえるみたい」
「どこ?」
「もっと西。
どちらかといえば寒いところなんだけどね。生まれたところ。
でもすぐに旅に出ちゃったからな、いろんなところ通って来たけど
最近ずっと掌空にいたからこんな綺麗な空は久しぶり」
「掌空はあんまり綺麗じゃない?」
「普通かな」
少女は一口、コーヒーを飲む。
少し冷たい風が吹いた。
「掌空は冬とか、空が綺麗な時期になっても快晴とかないの。
少しだけ雲がうすくあったりとか。
だからそこまで綺麗に空が見えるわけじゃないの」
ずれかけたブランケットを再び肩にかけ、スバルは苦笑いした。
「旅してるんだよね、どうして?
」
「国司としては各國にある陣を集めるのが目的。
なんか宝物見つけるために必要らしいよ」
「…黄金?」
「知らない。おじさんもやっぱり聞いたことある?
その宝物は陣を集めるとでてくるんだって。
そんなことに国司出しちゃうなんて、おかしいの」
「そう?」
「?」
だって本当にあるかどうかもわからない、随分とあやふやなものなのに。
スバルは小さく言った。
しかし少しだけ真剣に言ってみる。
「掌空がそれを組織するのは少し、確たるものを持っているからだと思うよ。
その噂はたくさんの地域にいろんな形で残っているけど
どうして掌空がこの時期に国司をだしたのか、理由があると思うけど」
「何か知ってるの?」
「別に。昔一度だけ聞いたことあってね。
昔といっても二、三年前、最近だね。
客から聞いたけれど、同じようにここにとめた客から。
掌空からはじまって、そのまま南へ降りて西へ渡り北へ上る。
掌空から旅立つとどうしてもそのルートをたどることになるよね。」
「掌空は東の果て、北の國だからね」
「そのルートを自然ととれるのは掌空だけになる。
そのまま大陸沿いに陣を集めると見事世界を一周することになるわけだ。
時計と一緒。
そして中心にある荒れた内海に黄金はあるとされているんだと」
ため息混じりにつぶやく。
自分とてこんな話しをまるっきり信じているわけではない。
しかし妙に確信をもって言う昔の客を思い出し、口篭もった。
ふーん、とスバルは考えるようにつぶやく。
「…他に?旅する理由とかはあるの?」
少し気まずくなって慌てて言う。
スバルは少し照れたように下を向いた。
「ちょっと言ってみたいところがあってね。
昔からずっと行きたいところだったの。」
「どこ?」
「…内緒」
笑うと少女はてけてけと走って部屋へと入る。
ひょっこりと顔を再びだしたかと思うと「おやすみなさい」といった。
ふいにおかしくなって笑いながら手を振り、返す。
小さな子供のような動きだった。
翌朝、昨日までいた少年もついでとばかりに巻き込んで
一向は旅立つ。
妙な気分になりつつもささやかな食料を餞別に、少しずつ、前へと進む。
さて、黄金の話しが新聞に載る日がくるのだろうか。
ゆっくりと新聞を広げ、大きくあくびをした。
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第十二段、港の店主。
な、なんかすごくつまらない話しになった…っぽい?
意外と書いててたのしかったんですが、妙な展開になりました。
二人は陣を集めるために旅をするけど果たしてそれに意味があるんだろうか。
まあ、楽しければOK?(どうだろうね)
以前書いた病院のコックさんとは違い
妙に腹黒そうな店主さんになりました。
洞察力のある人は凄いと思います。
みて知りえることはきっとすごく多い。
けど見えないことも多い。
それまでも見通してしまうような視線はすごいなぁ。
うん、凄い。
(2003/12/11...haruco)