足跡篇8 道具屋の老女



あの子達はいずれ海を越え

霧の中に立つだろうか



いれたばかりのお茶をカップに注ぎ

ゆっくりと椅子に腰掛ける。

夫の作っていったラドリフをゆっくりと口に運ぶ。

赤いルフの実の代わりに今が旬の黄色いリンジの実をのせた菓子は

口の中に甘く広がると爽やかな酸味を残した。

「ふ…」

ルドルフを食べるとこみ上げてくる思い。

なんとも懐かしいこの味は同時に懐かしい思いでも思い起こさせた。



昔であった娘は藤色の髪の毛を静かにゆらし、いつもなびかせていた。

腰の位置まである髪の毛が印象的で妙に静かに笑っていた。

その土地で霧の晴れる短い時間になると決まって部屋にやってきて町を案内してくれた。

高い塔、賑わう町、静かな湖。

多くの自然に囲まれたその土地はひとたび霧につつまれてしまえばあたりは白く

全神経を研ぎ澄ませてみても満足に歩くことは出来なかった。

霧の晴れる時間が終る頃になると強めの風が吹く。

それを目安に人々は家に入ったりするのだが

そこに住む人々にとっては霧は雨のようなものなのだろうか

自然と慣れているようで霧で満ちてもいたって普通に歩く者もいた。

少し町を歩きすぎて一度だけ、霧の中取り残されたことがある。

手を伸ばしたあたりしか良く見えず、あたりには素知らぬ靴音。

店や家々の明かりが霧の中ぼんやりと浮かび上がり、そこを目指して歩いていこうと思っても

足もとの小さな段差にもふらつくだけだった。

おそらく自分がそこの住民ではないというのもあるだろうが

人々は注意深い足音を響かせ通りすぎるだけで救いの手はやってこなかった。

泣き出しそうになり、恐くなりあたりを見渡す。

何がわかるわけでもなくそこにずっと止まるしかなく

次分の隣りに壁らしきものを見つけてからはそれを伝ってゆっくりと前進していた。

しかしどのくらい自分が進んだのかわからない。

まだ日が出てる時間だというのに濃密な霧は視界を奪い

無情に感じられる音だけを発す。

今にもくず折れそうな自身を精一杯立たせているときに

やっと待ち望んだ音がやってきた。

少しかかとの高い靴

焦ったような足取り

その靴音は次第に大きくなると少しだけ姿が見えるようになってきた。

「フエっ!」

泣き出しそうな声。

先ほどまで自分が泣きそうなことを忘れフエは抱き着いてきた娘をゆっくりだいた。

「よかった。

 来てくれなかったら明日までこのままだったよ」

「何をいってるの?

 あれほど風に気を配ってといっていたのに!」

良家の者なのだろうか、彼女の家は高く塔の形をしており

また彼女の服も美しい布で折られていた。

「さあ帰りましょう?」

さしだされたその白い肌、小さい手。

揺れる藤色の髪。

フエはすまなそうに笑うと頷き、彼女の名を呼んだ。



「懐かしいね」

足元に擦り寄ってきた猫に言う。

かつて旅した日はどのくらい昔のことだっただろうか。

彼と出会い、歓砂に住み、旅の知識を元に店を開き

慌しくも嬉しく喜びに溢れた日々。

足元の猫も相当年寄りなようで数年前にはじめてこの店にきてからすっかり常連だった。

薄茶色の毛を丁寧になめると開いている椅子にちょこんと座る。

フエは笑っていつものよういラドリフのリンジの塗っていない部分を砕き、猫の前に置いた。

一声鳴いてからゆっくりと食べ出す。

いつもの午後。

いつもの一時。

ただ懐かしく思い出すあの色と

ついこの間やってきたあの色と

不思議と同じ気持ちにさせる藤色になんとも嬉しい気持ちになる。

スバルがいつかであったあの娘と親類だったら面白いが

どう考えてもスバルと娘の雰囲気は違っていた。

あの娘はなんとも高貴で、もの静か。

おとなしく笑うかと思えばむきになって怒りもする。

あの土地をでてから何度もあそこへ足を運ぼうとしたが

たどり着くことは出来なかった。

どうしても、霧に拒まれ前に進めないのだった。



いつだったか彼女が言った事を思い出す。



きっとこの世界 つながっているから

またいつか 望めばきっと 届くはず

だから もしも いつか

あなたの笛を 聴かせて頂戴



何度も思い出して、何度も忘れた言葉。

時の中に埋もれた言葉をゆっくりと探り出したフエは

ゆったりとした動作で立ち上がると部屋に所狭しと並ぶ棚の一つから細い笛を取り出した。



お昼時。

休憩中と掛かれた小さな道具屋から

街へと 街道へと

小さくも高く響く

豊かな音が風にのって流れ出た



街に面した砂漠の風は歓びの砂を巻き上げ

彼の地へ運ぶ













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第八段。歓砂の道具屋のおばあちゃん。

なんとなく好きなお方。

おばあちゃんになったことはないので本当にこんな喋りとか思い出し方とかするのかわからないけど

なんだかこんな感じになってみたい。

思い出は遠く

強く思ったこともかなわずに薄れることもあるけれど

またいつか思い出す

そんな少し悲しいけれど、すごく大事な事。

フエさんは霧の土地にすごく行きたかったけど行けなかった。

でも笛の音は"歓びの砂"にでも乗って霧の大地に届くんだろう。



なんだか登場人物の年齢層が妙に高いと感じます。

平均30くらいか…?

次はだれにしましょうかね。

読んでくださり、ありがとうございます〜

これからも頑張るぞー!









(2003/08/12....haruco)