足跡篇7 歓砂の戦闘部員
怪我はまだ、治らない
背中と足、細部まで見るならば腕の傷や肩の痛み。
数日が経過したが擦り傷以外当分治りそうな傷は見当たりそうになかった。
小さなため息と共にベッドに身を起こし両足を軽く靴に突っ込んであたりを見渡す。
清潔そうなベッドが並ぶ病室には知った顔が一人二人。
どれも同じ所属の戦闘部員だったが程度に差はあれど皆任務で負った怪我を静かに癒していた。
対魔物戦で、護衛任務で。
その点自分はどうだろう。
昨日仲間と話したが理由を聞かれても上手く応えることは出来なかった。
「まだ浮かない顔をしているな」
上から声をかけられる。
ゆっくりと顔をあげれば先ほどまで斜向かいのベッドに腰掛けて本を読んでいた仲間。
包帯を巻き、固定された右腕を慎重に動かさないようにしながら自分を見下ろしていた。
赤い短髪、同じ色の瞳。
恐ろしく似合わない清潔な白の服に身を包んだ彼はだるそうに自分の横に腰掛けた。
「ヒイラギちゃんたらまぁだ気にしてるんだ〜?
あんなちんまい子に負けたこと」
「…見てたのか」
「最後だけ。
怪我してヒマしてる時に王様一行が見えたからな、ちょっとつけてみた」
「…で?何が言いたい」
「別に〜?」
軽く口を尖らせて言葉を続ける。
「お前でも負けるんだ、と思っただけ」
「俺に勝った事があるわけでもないだろうに…
相手が強ければ俺だって負けるさ」
戦闘部内での私闘は厳禁なため実際にこの赤毛と戦ったことはない。
しかし幼少の頃から剣を学び、鍛えていると噂のこの男には正直、勝てる自信などなかった。
ただで負ける気も、さらさらないのだが。
「強かったの?あのちびさん」
「……」
「体格差ありありなのに」
「…リーチの長さなど役に立たないよ。
間をとったかと思えば一気に入ってくる。
動きについてくので手一杯だ。
砂漠の魔物くらいトロかったら楽だろうにな…」
言うと同じによみがえる苦い記憶。
甘く見た部分があったにせよ、武器を使って負けたのは屈辱だった。
「ヒイラギは意外に負けず嫌いだからなぁ…
でも、あの子本当に良い動きしてたよ。
軽い動きばっかだったけど」
「あれに色陣がついたらそうも言ってられないだろうな」
「…何?今時色陣なんて使えんの?あの子。
基盤はなんだよ…杖?呪文?札?」
「糸だよ。
見えにくい上に恐ろしく早いんだよ、構成するのが」
以前糸を使った、色陣を行うのに似た遊びを教えてもらったことがある。
それはひとつの輪にした長い紐を手に巻きつけ、両手で掬い取り別の形にするといったようなものだったが
あれですら自分の指ではやりにくくてしょうがなかった。
無骨とまではいかないにせよその辺の男の手よりは荒く大きい。
あの白く細い指が軽やかに陣を編み上げるのには目で追うことすらやっとだった。
「いいなぁ…俺も戦ってみたいよ」
「やれるのか?少女相手に」
「ヒイラギだってやったじゃん…まあうん、そこは…ね。手加減?」
「……手加減すら難しいよ、あれは。
そんなものは油断以外の何物にもならない…恐いよ」
「……実は、相当参ってるね?
まあいいや。
それにしても面白い髪の色だったよな」
「人のことを言えたものではないと思うが?」
彼の赤く、それでいて透けるような茶色の印象がある毛はここいらではそうそう見れるものではない。
世界の東に位置する歓砂はアズマガオ的黒髪と茶髪が大半を占めていた。
「あそこまで珍しくねぇよ。
どこの生まれだ?」
「さぁ…?西の方とか言っていたかな。
旅して回っていたそうだからあんまり覚えてないそうだ」
「ふ〜ん」
赤髪じゃ相当"ヒイラギに勝利した少女"が気になるらしくまだ色々と聴きたいという瞳を向けてくる。
目をそらしては見たが無駄だった。
嫌でも聞こえてくる明るいその声で彼は続けた。
「また…旅したい?」
「は?」
「二年かな…?その位前に旅したじゃんか。
俺と、お前と、カイと」
「懐かしいな…そういえばカイは元気にしているのか?」
「この間連絡があったよ。
掌空で国司の仕事の募集があったとかいってな。
決まるかは分からないらしいがまあ旅の際には寄るそうだ」
そういえばあの二人も国司だとか言っていた。
信じられないが実際焼印も見たことだし信じずにはいられなかった。
数年前共に旅した友を思う。
また会えるとしたらなんと素晴らしいことだろう。
互いに少しは成長しているのだろうか。
ふと脳裏によぎる懐かしい旅の記憶。
はじめてみた透き通る海、広大な草原、広がる星空。
珍しい動物、危険な場所、愉快な村。
懐かしさと同じにこみ上げる、言いようのない楽しさは旅立ちを思わせる。
「いきたいな〜また旅。
一緒に行こうぜ?」
「軽く言うな…任務があるだろう。
諸国調査の任でも率先して引き受ける気か」
「…いいね、それ」
ため息と共に漏れる不思議な嬉しさ。
否定する反面心に溢れるその気持ちを決して表には出さないように
絶対に悟られないように自らを戒める。
歩き出した少女達を思い
旅をする自分を思う
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第七段。ヒイラギさん。
途中にいたおばあちゃんとかにしようかとも思ったんですが本当に脇役なのでやめておきました。
どうしよう!こんなところでヒィさんだしちゃったら次誰書けばいいんだろう!?
…砂の王様?ダンディズム。
気がつくと楽しくなって女の子ばっかり書いちゃうので戒めの為に男キャラを書いているけれど
思いの他おっさん率が高くてびっくり。
う〜ん。
そういえばこのお話の赤毛のお兄さん。いったい誰なんだろうね。
カイさんとかね、また名前つけてからに…。
とりあえずヒィさんの御友達。腐れ縁。
早く追いかけさせたいけれどまたちょっと後で。
ひとまず二人の駒を進めなくては…!!
(2003/07/24....haruco)