足跡篇5 海王
広い部屋の中央に一人男が立っていた。
建物の中で一番高いところに位置するその部屋は遥か遠くの隣りの城も、自國の海をも臨むことが出来
男のいる部屋は個室らしく、一つの大きなベッド、いくつかの箪笥、いくつかの棚、一つの大きな机が整然と並べられていた。
北を除く三つの方角へ向けて大きな窓があり、ひときわ大きな南の窓にはベランダがついていた。
東から朝日が入りこみ男の顔を明るく照らす。
男は軽く眉を寄せ、眩しさをこらえながら腕を上へと上げた。
男の体躯はたくましく、髪は鮮やかな黒。
瞳は深い青で口には少しばかりの髭。
今はそのたくましい上半身をさらけ出していた。
気合と共に何度も上げられる腕。
その手には巨大な木製のダンベルが握られており爽やかな汗に似合わず男の顔は激しくゆがんでいた。
「ユウザ」
いつからそこにいたのだろうか。
部屋の入り口のすぐ近く、壁にもたれて男が立っていた。
「ああ、もうそんな時間か」
ユウザと呼ばれた男は軽く笑ってダンベルを降ろした。
朝の日課である軽い運動を終えてから泰海王・ユウザは朝食のため、広間へと移動した。
その傍には彼の傍仕えとなっているアルダ。
二人がいつものように広間へと足を踏み入れると広間にいた召使らが一斉に頭を下げた。
「おはようございます」
召使の中で一番高齢の男が挨拶と共に頭を下げる。
ユウザはそれににっこりと答えた。
「おはよう。
今日もご苦労様。
さあ掛けて」
気さくな王の言葉。
一同は微笑みながら席についた。
城の中に十五ある大部屋の中、食事をするのに日ごろ使われるのは三つ。
王族によるものと、召使によるもの、さらに騎士達によるもの。
王が食事を始めると側近らを残して召使いはさがるのだが
二年前、ユウザが即位してからその慣例は崩れ去ってしまった
もとから気さくで寂しがり屋という面を持つ現王は即位した翌日には少ない人数の食事に飽き、
戸惑う召使いを一人、二人と引きずりこむほどだった。
どうせならばと朝居合せる全員と今では食事を共にしていた。
「さあ食べようか」
全員が席についたのを確認し、それぞれ小さく祈りの言葉を言う。
特に宗教の定まらぬ泰海は城ですらこのありさまだった。
王とて無宗教だと公言していたが今では少し興味があるからといって月の神に祈りを捧げていた。
このいい加減な王の声を始まりに毎朝食事は始まる。
楽しい食事。
王室にあるまじきその賑やかさは今となっては城中の噂だった。
「ユウザ様、お食事中失礼いたします」
三十年以上呑みつづけてきた朝の牛乳の最中に、声は掛けられた。
声をかけたのは書簡管理の執事。
手には小さな筒型の手紙が入っていた。
「ああ、何?手紙?」
「はい。
以前城に立ち寄り、王に謁見されました掌空の国司からです」
ふむ、と小さく言ってから書簡を受け取る。
銀の筒に入り、掌空国司の紋が押してあった。
発信はアガの洞窟の近くの自営局。
鳥に託された書簡らしく紐が揺れていた。
カサ
筒の中から音を立てて紙が出てくる。
ユウザはその文面を見て笑みを浮かべた。
紙につづられるは小さくも美しい字で独特の形をしていたが女の文字だと知れた。
そこに記されるは陣の回収の完了とその御礼。
王に向けるには少し軽い口調のそれに思わず笑わずには要られなかった。
「掌空の国司ですか?」
近くに座るアルダに声をかけられる。
「ああ」
「その様子だと上手くいったのでしょうね」
少し崩れた口調。
彼特有のこの近さに王は常日頃から嬉しさを感じでいた。
「ああ。
やはりあの洞窟であっていたようだよ。
これから歓砂に向かうらしい。」
「歓砂。
砂漠を超えるのは少し骨でしょうね。
あそこは蟲も多く出る。
…まあ戦闘部も配置されてるでしょうから大丈夫でしょう」
「そうだね。
…それにしても掌空は、本当にあんなものあると信じているんだろうか」
「…黄金?」
「さあ?なんだか分からないけれど」
牛乳を飲み干し一息つく。
ユウザはだらしなく頬杖をついて大きくため息をついた。
「もっと他にやることがあるだろうに。わざわざ国司まで出して。
私だったら先に探査隊なりなんなりだして陣の確認からするよ?」
「余裕があるんでしょうね。
確信があるのかもしれない。
予算と人員をさいて、集める意味が。
どうやら彼らは陣を見つけてしまったようだし、まあこれで黄金があったら儲けものでしょう」
まるで自分に関係ないとでも言うようにアルダは告げた。
事実、現時点で泰海にはあまり関係はないのだが。
国司という任務に対して少し大きい名にユウザはなっとくいかないでいた。
「そんなに気にいらないなら掌空に使いでもだしたらどうです?
『そんなところにさく人員があるなら自國の産業に使え』と」
「馬鹿言うな」
思わずユウザは苦笑いした。
そして香ばしく焼けたパンを一かじり。
「そんなことしてもあの頑固な王様は揺らぎもしない。
と、いうか喧嘩ととられて買われかねない」
その後も続く軽い談笑。
「まああの者達は結構好みだから
是非頑張ってもらいたいね」
気軽に告げる王にアルダがうなづいたとき
小さな紙を持って男が近づいてきた。
そして耳打ち。
王はまたしても笑うと調度終えた食事を見渡しフォークとナイフをおいた。
ゆっくりと席をたつ。
「じゃあ仕事があるからこのへんで失礼するよ。
皆は適当につづけて、片付け等よろしくね。
では、今日も1日がんばろう」
王の言葉に皆立ちあがり一礼。
緩んだ顔を少し引き締めて部屋をでる。
廊下を歩く王の後ろを続いて部屋からでたアルダは追った。
「どうかしたんですか?」
「これから仕事だよ。
まあちょっとした伝達も入ったことは入ったけど、あんまり大した事じゃない」
「?
なんです?」
「城下に…」
王は笑いながら続ける。
「城下に小熊が出たようだ。
目撃は3件。
以前掌空よりの国境で初めて目撃されてからこれで十五件目。
だんだんと南へと移動していってるな…
これまでと同じく死傷者はゼロ。
ごく近くに居あわせた者も特にうなられたりしなかったそうだ。
さっさと逃げたらしい」
側近は安堵のため息と共に王をみた。
「まるで楽しいようですね。
このままこの國を貫けてくれれば一安心ですが小熊とは言え野生の動物。
被害が出ないとも限りませんよ?」
「大丈夫だよ」
まるで見てきたように、知ったように王は告げる。
廊下には厳かな足音がいくつも響いた。
「証言、再現画にも目を通したがなんだか大丈夫な気がする。
ちょうど聞いたのが掌空の国司と同時期だったからかも知れないね。
なんだかそう恐いようには聞こえないんだ。
…一応、警備を少し強化するようにはいってある」
にっこりと微笑むと王は広間への戸をくぐった。
こうして、日はすっかり上がり城下町には活気が出始める。
朝の鳥声を聞きながら、ユウザは王の椅子に腰掛けた。
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第五段。海の王様。
なんだってまあここまで気さくにしたかったんだかわかりませんが楽しかったです。
今まで一番早くかけた気がする!
王様にしては軽すぎますが…許してください。
王室の威厳等は想像の域を出ないので嘘モンくさい…こんな王室あっていいの!?
…他国の王様は威厳バリバリで厳つい感じだと思います…多分。
なんだろうね、この言い加減さ。
微妙にアルダが好きでして、超脇役なのに名前付き。
密かに幼い頃から王と共に育ってたりします。
あれだ!アンドレ見たく。
恋に発展したりなんかはしませんよ!?(ブルブル)
さらに隠れ設定で、アルダにはそれはもう愛らしい奥さんがいる予定。
なんかこう小さくてふわふわの髪で幼い息子とかいるの!
家に帰ると「ちちうえー!」とかいっちゃうの!!
わー!!
…なんだろう…
そんなこんなで今日も空旅は元気です。
小熊に気をつけて、頑張りましょう。
(2003/05/09....haruco)