足跡篇2 マリ



「じゃあ、行って来るね」

そう言って出ていったのはいつだったろうか。

あれからも日々は過ぎ、人々の中にいるというのに

何故か少し、色が褪せてしまったようだった。



「もう1ヶ月以上経つのね…」

マリは一人、呟いた。

塔のような作りになっている、石造りの家にはかつて彼女がいた思い出はあまり残されていない。

家具と、食器、それと少々の寝具。

それ以外には、鍵を開けたときから大して残されていなかった。

かつて同じように腰掛けたのだろうか

そんなことを思いながらベッドに腰掛ける。

あの日以来完全に空一座の持ち物となったこの家にはマリともう一人、少女が住むだけだった。

「そんなに寂しい?」

体勢を崩し、横になり、しばらく窓をみつめごろごろとしていたら少女はいつの間にやってきたのか

部屋の入り口で戸に寄りかかり、こちらを見ていた。

「あら、いたの。

 外に出掛けたのだと思っていたわ」

起きあがり、にっこりと微笑む。

たった今帰ってきたの、少女は笑って返した。

そう、かつてはこのぐらいの小ささだったのだ。

はじめてあった頃は自分もまだ幼く、自分の世話さえままならぬ頃だというのに

座長に「妹」と押し付けられた。

会ってみれば自分の胸ほどの身長もなく、目線を合わせるのに苦労した覚えがある。

「ねぇ、寂しいの?」

この質問も、聞きなれたもので。

いつものように返した。

「何をいっているの。

 もう大分、なれたわよ」

「そう?」

「そう。

 あなたこそ、寂しいんじゃないの?」

明かりのような子だったから。

旅立つと分かっていても、実感すら沸かず、別れも随分希薄なものだったような気がする。

「寂しくなんかないよう!

 だっていつもあたしの事いじるんだもの。

 結局色陣だって教えてくれなったんだもの!」

しきりに色陣を教えてくれとこの少女がせがむ日常はまだ新しく思えた。

そう言われても軽く答えて流すだけで、一度も教えようとはしなかったのではないだろうか?

めんどくさかったのよ!大人びたこの少女は口を尖らせていった。

思わず、笑みがこぼれる。

性格も顔も全然違うのに、どうしてこうも二人はだぶって見えるのだろう。

ひどく愛らしく、困らせ、微笑ましい。

そればかりではなかったけれど、彼女と過ごした空気もこれと似ていた。



「よろしくね、マリ」

はじめて主役を二人で演じた日を思い出す。

一人での主役ではなくて、ヒーローとヒロインというもの。

息が合うかは不安だし、自分より小さく、幼いこの娘がきちんと見えるか心配だった。

自分の演技に確固たる自信などあるはずもなく、

動揺を押さえ、にっこりと笑い返すのが精一杯だった。

しかし見返せば横顔。

その凛としたまなざしは前を捉え、薄い色は風に揺れた。

その姿があまりにしんとしていて、当然のようにすましていて

思わず周りも忘れ目を離せずにいたのだ。

窓の外の空に、同じものを思う。

冷たい空気がのどを通りすぎたかのように新鮮で、澄んだ気持ち。

当たり前のようにそこにあり、風のように過ぎていく。

捕まえようという気は毛頭なく、またねと小さく返したのだ。

彼女も笑って見つめた。

その瞳に嘘はあっただろうか。

もちろん知るところではないのだろうけど、察しがつくあたり、嬉しくなる。

以外に涙もろく、優しく、冷静で

時に強引で、恐ろしく臆病で

傍にいれば飽きもせずよってくる

それを知るのは自分だけではないが、

その全てをみな違うように感じ取っているのだ。

「マリはもう本当に!大好きだよ」 彼女は笑っていってくれたものだ。

その口調と空気、全てが全身に染みたようだった。



「ほら、マリ姉。

 もう荷積みするってよ!」

既に階下におりた少女が告げる。

はいはいと大きく笑って返しながら、部屋の済みに積み上げた荷物を見る。

さあもう巡業の季節になる。

空が高くなった今、また同じように旅立つときだ。





「行って来るね」

彼女が言ったようにまた

遠く果てない空の向こうへ







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足跡篇第2段はマリです!

忘れた方も多いことでしょう(あわわ)…スバルのいた空一座の売れっ子姉さんです。

スバルのお姉さん的な方で今や一座にとって女神とも言える御方。

今回も前回と似たように「スバル」と言わせないためにまわりくどく、がんばりました。

ちなみにマリに話しかけてくる少女はお話しの最初の方でナレーターとして声をはりあげていた子。

マセた子しかかけない…!

本当に小さい子供ってもっとわからなくて摩訶不思議なものですよね…!!

これからも精進精進!

しかしこれじゃマリさんどんな人だか分からない・・!!

これから季節の巡業のようです。

冬から次の夏の終わりまで諸国をぐる〜っと一周。

ちょっと休んで、また巡業といった感じ…?









(2003/01/14....haruco)