足跡篇1 コノエ
ゆっくりと息をつく。
洗濯物を干す手をとめて、ふと空を見上げれば快晴。
視界の隅に薄く流れる細い雲がゆっくりと流れ、消えていく。
「もうそろそろひと月たつ…」
ちいさく言うと下を向き笑う。
しかしすぐに首を振るとコノエはまた洗濯物を干し始めた。
朝起きて、父を起こして、食事を作り、羊に餌をやり、洗濯物を干し、出かける支度をする。
それがコノエの朝の仕事。
家をでてから数十分のところにある学校までゆっくりと歩き、数時間勉強したら街で買い物をして父の店へ。
そう、すっかり習慣となってしまったこの生活は変わることはない。
たとえ家の住人が一人減っても二、三日もすれば慣れてしまい大して感傷にひたることもなく
店でだした残り物が夕食となる生活も変わりはしない。
変わったことは洗濯物が減ったこと、のんびりとした姿が見えないこと
「コノエのお兄さんはどんな人?」
ふと友人からもれる言葉にコノエは苦笑いをする。
実際どんな人であるかなど口で説明できるはずもなく、ただ漠然と感じることをいう。
「のんびり屋…かなぁ?」
笑って言うも、違うと自分の中でいう。
決してせっかちとは言えないが、特別ゆるいわけでもなく
滅多に執着しない姿と、頑として我を通さぬ性格だけが思うこと。
学校の帰り道交わされる言葉。
友人はひらりとコノエの前に走り出すと笑っていった。
「それだけ?
だって国司なんでしょう?
強いとか、頭がいいだとか、優しいとか、たくましいとか!
あるでしょう?
こう、なんていうの?我が兄ながらすごいってところ!」
ああそうか、この娘も兄がいたのだった。
四つ離れた彼女の兄は街でも名を聞くほどの熱心な学者で
自分にない熱さに恐れ入り、そこばかりはただただ尊敬すると彼女はいうのだ。
生きる年の違いが、近くにして見える大きさが。
同じ兄をもつ自分にもあるのだろうか。
「えぇ?」
困ったように笑うしかない。
「うちの兄さん?
そんなに強くはないし、頭も良くない。
すごく優しいわけじゃないし、たくましくもない…むしろナヨナヨしいよ。
普通…じゃないかなぁ・・」
そう、特別誉めるというか…これといって自慢できるところを持たない兄なのだ。
好きだとか嫌いだとか。
尊敬するとか軽蔑するとか。
断片的にでも判断することは出来ない。
それが普通なのか、普通でないのか。もちろんコノエには判断できない。
「ああ…うん。
でもね、まあお兄さんだなぁ、って思うことはあるよ」
例えばきまぐれで頭をたたくとき。
タイミング良く怪我をしたところに救急箱を持ってくるとき。
ふと気づくと自分の仕事が減っているとき。
「じゃあやっぱりお兄さんなんだね」
さらりと静かに彼女はいう。
ああ、だから自分はこの友人が好きなのだ。
受け流すでもなく、突き止めるでもなく。
とても自然に聞いてくれるのだ。
「国司かぁ…。
任務はなぁに?聞いてるの?」
兄がなったのは国司の中でもそんなに重要度の高くないものだから、任務も重くはないと聞く。
「…いろんな國を回ってなんだか集めるものがあるんだって。
集めてなにになるんだか聞いてないけど・・なんだろう。」
そう、まったく陣など集めて何になるのだろう。
国司になるといったときも
国司になったときも
国司として旅だったときも
さも当然のように話し、すべきことをさがしていたのだ。
少し悲しいのはいなくなることで。
少し羨ましいのは新しく出発できること。
おまえはもう少ししたらだね
ゆっくりと告げた父の声。
いつものように、足りないと思われたのか
それとも、もう少しで足りると思われたのか
わかることはなかったが、もう少ししたら動くのかもしれない。
自分の場所が、自分の心が、自分のものが。
「私もいってみたいな」
ふともれたのは、いつも考えていたこと。
「ちょっと外にでて、いろいろみて。
それでお母さんの國にもいってね、おいしいものもたくさん食べて。
もっといろいろしたいなァ…強くなってみたいな」
「ああ、いいなぁ!それ。
こっそり後つけちゃうかも!」
笑って言う。
そうだね、そうだね。
そんな日がくるように、私も新しく出発できるように。
変わったことは洗濯物が減ったこと のんびりした姿が見えないこと
ひとつだけ 絶対に 叶えたくなったこと
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足跡篇…エセメルマガ企画で今まで出会った感じの人とかを(無理矢理)出して二人と絡めて描いていきます。
第1作はコノエ。
ハヤテの妹にして、お世話好きな子…だ…!多分!(オイ)
コノエのなんちゃって一人称はとても書きやすく、ハヤテについてが描きやすいです。
だれかの性格を口で説明できることはないと思うんです。
全てを語るなんて、あたりまえだけど。
ただそれでも兄弟ってのは難しくて、微妙だと思います。
全ての裏表が細かく入れ替わり、両方を常に見ていて。
つまり判断なんてできないんだろうと…。
私的にコノエは家族といるときは意地をはるような、負けず嫌いなような、素直じゃないような。
でも他の人に家族のこととかを話していると、やっぱり大切だと思っている事に気づいてきて一人で悔しくなってきているという…
とてもかきやすく、描きにくいお話しでした。
ちなみに今回の頑張りどころはコノエに「ハヤテ」と言わせないこと(笑)
妙なところで、頑固です。
(2002/10/31....haruco)