40 門前払い
「畜生!なんだってんだあいつら!!」
「ばかばーか!」
「……頼むからさ……あんたらそれやめてくんない?」
溜息混じりにハヤテが呟いたのは城下正面の公園でだった。
彼の正面に立つ二人は、それぞれ思うがままに顔を歪めて城に向かって力の限り叫んでいる。
思わず目を覆いたくなるようなその光景は、ようやく起き始めた城下町に静かに響く。
「のーろわーれろー!」
両手を口元に当てて叫べば、赤毛が揺れる。アツは妙に誇らしげに言ってのけた。
スバルもまた得意げにアツの横で両手を腰に当てていた。
ハヤテは先ほどからそんな二人の様子を溜息混じりに横目で見つめていたのだが、
彼の隣に座っていたハルベットが不意にびくりと肩を揺らした。
「……?」
ハヤテが訝しがってゆっくりとそちらを見れば、ハルベットが緊張したように目配せをしていた。
それに気づくとハヤテはそっとしたからハルベットの顔を覗きこんだ。
「どした?」
「こんなところで叫んでたらさ……憲兵とか来るんじゃないの?」
冷や汗。
ハルベットがそっと城の方を見つめて言うので、ハヤテは若干俯き気味にそちらを見やった。
走りよる人影。
モスグリーンのかっちりとした制服に身を包んだ男達が三人、四人。槍を構えながら走ってくる。
それは声高に、まるで威嚇するかのように何かを叫んでおり
もはやその距離は、数秒もあれば辿りつくところまで来ていた。
「やばい!逃げるぞ!!」
ハヤテは背中に冷たいものを感じると、慌ててハルベットの襟首を掴んで走り出した。
懸命に走りながら振り向いて、唖然として脚を止める。
気づかないのだろうか、それともわざとだろうか。
どちらにせよ大差はなく、とにかくアツとスバルは以前として得意げに城に向かって野次を飛ばしているのだった。
「っの阿呆ども!
一生やってろ!!」
ハヤテは大きく舌打ちを一つすると、くるりときびすを返し、走り出した。
後ろからケタケタと笑い声、そして走る靴音が響いてくるからには
恐らくふざけていたのだろう。
あの二人のことだから憲兵にやられるとも思わないが、その余裕には無性に腹がたった。
「畜生!なんだこの国!」
怒りのやり場は散々さ迷った挙句、遠のいていく城へと向かう。
この国は本当にワケの分からない国だった。
簡潔に言うなれば、アツが王との謁見を断られた。それだけのことだ。
得意げに王からの書状を見せ付けたアツは快調に扉をくぐり、
突然の謁見の申し出にも関わらず、謁見室のある館まで迎えられたのは奇跡に近いような気もする。
そこまではスバル達も調子にのってついていったのだが
上機嫌すぎるアツはそれに気づくことすらなかった。
そう、そこまでは順調だったのだ。
あと一つ扉をくぐれば謁見室。そこだった。
流石に押し留められたスバル達が部屋の前のソファに憮然として座っていた。
一度は扉の内側に入ったアツは、数十秒もしないうちに、無理矢理部屋を追い出されたのだった。
そのまま訳も特に聴かされないままに一行は無理矢理城から叩き出され、
早々に門を閉められたのが効いたかも知れない。
後々理由をアツから聞いてみれば、それは全くおかしな物だった。
「俺が歓砂の戦闘部員で、赤毛だからだって」
自分の髪をつまみ、恨めしげに言ってのけたアツの顔が忘れられなかった。
歓砂の戦闘部員といえば優秀で、歓砂自体国として信頼が高い。
そんな国の男を、王の書状付きでやってきた男をそうそう追い返したりはしないだろう。
それでもろくに話しも聞かずに追い返す。
こうなれば全く持って、この国の王は得体の知れない人物となるのだった。
一行はひとしきり走った後に、森の手前で足を止めた。
ハヤテとハルベットが息を切らせていれば、途中で宿に戻ったのだろう、ユミレオをつれてきたスバルがすぐに追いついた。
その後に続いたのがアツ。
姿が見えないときは行方をくらましたのかと案じたが、どうやらそうではないようだ。
彼は両手に焼き菓子を沢山持って三人に笑って近寄ると、
それの入った紙袋をどさりとハルベットに押し付けた。
「まあ食え少年」
陽気に言うアツは息を切らしながらも上機嫌だ。
ひとしきり叫んで気が済んだのだろう、すっかり笑顔で焼き菓子を一つ取ると美味そうに食べていた。
「……あのまま逃げちゃうかと思った」
スバルがぽつりと呟けば、ハヤテもまた盛大にうなづいた。
「あのまま?」
「憲兵に追われたじゃない?国の悪口いってたから。
逃げ出したときに、アッさんうちらからも逃げちゃうのかなーって」
あんまり良く思ってないみたいだし。
ぽつりと呟いてスバルは俯いた。
「なんだー大丈夫大丈夫。
俺はヒイラギとは違うからね、別に人と絡むの嫌いじゃないんだよ」
首の後ろに伸びる髪の毛をさらりと撫でてアツは笑う。
森の入り口にどさりと座りこむと、ちょいちょいと指を曲げて三人を呼んだ。
「何?」
尋ねたのはハヤテだが、まっさきにアツに辿りついたのはユミレオだ。
どうやらユミレオにはアツの赤毛が新鮮らしく、座りこんだアツの肩に両手を置くと
その頭のをしげしげと見つめていた。
「な、なにって……」
問われて答えようと頑張るが、アツはそれどころではない。
顔面に汗が浮かび、表情は凍りついたままに、視線がゆっくりと宙をさ迷っていた。
確かに状況から見れば今にもアツはユミレオに頭を食われそうな感じである。
少し笑ってそれを見ていたハヤテの頭をスバルはすぐに叩いた。
「ユミレオ、おろしなさい。怖がってるよ、アッさん」
ハヤテが苦悶の表情で睨み返してきたのを流すと、スバルは笑って先を促した。
アツは一瞬あっけに取られたものの、もう頭部に危険がないと察すると少し考えてから語り出した。
「ここの王は話しにならない。……とりあえず、俺だと話までこぎつけない。
国には知らせを出すが、その間も独自に調査は進めておきたい」
慎重に、言葉を選ぶようにアツはいう。
スバルが真面目にうなづけば、調度ユミレオの興味がハルベットの金髪へと移った。
「そこで、お前達に頼みが有る」
「?」
「お前達の旅についていかせろ」
「はぁ!?」
大きな声で叫んだのはハヤテ。
彼はアツのよこした焼き菓子をつまんでいるところで、叫んだはずみで思わずそれを取り落としてしまった。
「ど、どういうことだ、それ」
慌ててハヤテが問えば、アツは緩く笑った。
「言った通りだ。お前達のすること、情報は私の仕事の助けになる」
「……気に食わない」
ゆっくりというアツに、厳しい口調で言ったのはスバルだった。
彼女もアツのよこした焼き菓子を食べているのだから、緊迫した空気は台無しなのだったが。
「それはやっぱり、アッさんの仕事は陣を手に入れることだということでしょう?
真っ先に手に入れろとはいわれていないけど、うちらだって誰かに多くを知られるのは好ましくないよ」
冷静に言うスバル。
それを静かな視線で見つめ返すアツ。
二人の間に奇妙な緊迫感が走った。
「……ちょ、ちょっと喧嘩はやめてよ!?
僕は巻き添え嫌だから!!」
必死にハルベットが間に入れば、アツはふと笑みを浮かべた。
「大丈夫。うん、全部大丈夫」
アツは笑みを深めて空を見た。
朝から昼へと移り変わる、白みを増した太陽がまぶしく光る。
「よし!じゃあこうしよう」
アツはそっと笑うと。ハルベットとスバル、二人の頭をガシガシと撫でた。
緑の芝生がきしりと音を立て、合間にハヤテの焼き菓子を食べる音が響いた。
スバルは眉根を寄せて下から顔を覗きこみ、
ハルベットは呆けたまま撫でられた手を見つめていた。
ユミレオはそんなハルベットの肩に手を置いて、アツをみており
ハヤテだけがまるで見定めるかのような視線をアツに向けていた。
アツはやおら唐突に立ち上がると、笑みを浮かべたまま言った。
で、できた……!紅白歌合戦と共に戦い抜いた40話……!
良かった!年内にかけたよ……!約半年振りになってしまって……馬鹿……!
何はともあれ旅の続きをつむぎ出せたので良かったと思います。
この勢いで、続きも書いていきたいと思います。
2004年はあまり進めることは出来なかったから。
2005年は空旅も他のことも、楽しく充実させながらつむいでいきたいと思います!!
やるぜー!!
2004/12/31...haruco