37 薬局での出会い
「信じられない!何様のつもり!?」
昼間から宿屋の下にある酒場で大きな声を上げたスバルにハヤテは小さく「王様」と呟いて返した。
勢いにまかせドンとテーブルに叩きつけられたジョッキには先ほどまで確かになみなみと酒が入っていたはずだが
今の彼女にはたいしたことでもないようであれよという間に飲み干すペースだった。
「スバルさん何、酔ってるんですか?」
溜息混じりにハヤテは問う。
肩肘をテーブルにつき逆の手にはグラス。
確かにその中も酒ではあったが酒とも呼べないような軽い物で
彼はそれを地味にちびちびと飲んでは目の前の少女が暴れるのをみていた。
「馬鹿いわないでよ。この程度で酔うかっつの」
そういうスバルはほぼ素面のようであり
ほんの少し頬に赤みがあるにせよ酒を酒とも思っていないように思える。
「珍しいねぇ、お前が酒場に乗り込んでくなんて」
視界の隅で、同じテーブルにつきつつ小さな動作でグラスを傾けるハルベットを見守りつつハヤテは言う。
スバルはその声に鼻息一つで返すとストンと椅子に腰掛けた。
旅をしていればやれ名産だのなんだのと勢いで飲むことはそれなりにある。
もともと祝い事があればやれそれと家でも飲まされることはよくあることで
大して珍しいことではなかったが
スバルから昼間に酒場に行くなどということは初めてのことだった。
料理の合間に出されるようなものや、ほとんどジュースのようなもの。
そういったものを飲む様しかしらないわけで、
とどのつまりハヤテはスバルが飲めるのどうか全く見当もつかなかったのだ。
そしてその疑問は実際、スバルが酒豪だということで解決したわけだが。
「だいたいさ、断るにしてももう少し言いようがあると思わない?」
話は午前中に遡る。
一行が例のように城内での王への謁見を賜った所、それはひどく嫌味な対応で返された。
『得体の知れぬ一行を城内にいれること罷りなら無い』とのことで
掌空国司を名乗っても駄目だと言うのははっきり言って掌空を友好國としてみていないともとれる。
とりあえず仕方ないと、情報だけでもいただけないか、施設を紹介してもらえないかと尋ね
紹介されたところは街先にあるグロの観光窓口。
馬鹿にされたとスバルが憤ったところから今に至る。
「別にさ、いいじゃないの。王様にあえなくったって」
スバルが空になった三杯目のジョッキをコロコロとテーブルでまわすのを見ながらハヤテはいう。
しかし帰ってきたのはふくれっ面だった。
「うちだって何も王様に会いたかったわけじゃないよ?
ただなんていうかさ、あんな対応の仕方ないじゃないのさ。
しかも返答が王勅によるものだってのが気に食わない。
掌空をなんだと思ってるんだか」
ぐちぐちというスバルを見てハヤテはへぇとこぼした。
「お前が掌空に誇りを感じてるとは思わなかったな。
生まれは掌空じゃないんだろう?」
「そうだけどさ。ただ掌空国司をそういう理由で断る頭の悪さがどうだかっていってんの。
仮にも王様だよ?」
まじめな顔で返してくるスバルにハヤテは気圧されるように顎を引く。
自分のグラスも空になったところで追加を頼むべく片手を上げた。
「っていうかさ」
言葉を途中で切って追加を頼む。
グロ名産の果実酒を二つ。
会話が切れた所で少しスバルは焦れた。
「何」
「いやだからね。
俺が思うに結局お前は”待ち時間が長かったのに”ってのが一番の怒る理由なのかな、って思うわけで
……うん。そういうわけで」
強く睨まれる視線を感じてかハヤテは語尾を濁らせる。
慌てて視線をそらすが眼前のスバルが耐えかねたように口元を震わせているのが見える。
酒の勢いも手伝ってか、もう一度暴れだすのかと思ったとき
タイミングよく運び込まれた果実酒によって危機は脱する。
スバルは乱暴にそれを掴むと荒々しくをそれを飲んだ。
「おーい、大丈夫か?お前」
気遣わしげな声が夕暮れで赤く染まる街のとおりでかけられる。
「あー、うん」
ガンガンとする頭を抑えているのはハルベット。
ちなみにスバルはその横で一人、軟弱者め、とごちた。
「ハト大丈夫ー?一番飲んでなかったじゃないの、なのに悪い酔い?」
「お前がガンガン勢いに任せて飲んでるから
ハトが手持ち無沙汰になったんだろー」
睨み返されればするりと器用に視線をそらす。
スバルは口先を尖らせると街道を見渡す。
街の中心を通るこの細い路にはいくつもの店が隣接しており
なかなか大きな商店街と化していた。
その中に薬局を見つけるとスバルはぴょんと跳ねかけだした。
「いいよ、じゃあ薬かなんか見てきたげるから。
二人はそこにいて。
ユミレオ!」
一行が酒場から出てくるときに宿屋の裏庭から呼び出したユミレオをスバルが呼ぶ。
ユミレオはぴょんと耳を立てると子ウサギか何かのような可愛らしい動作でついてきた。
最も、その大きさが既に成犬以上ではあるのだが。
「早く帰って来いよー」
言うハヤテの声を小さく聞きながらスバルは駆ける。
しばらく駆け、人ごみを走り抜けていけば薬局にはすぐ到着する。
スバルは息も整わぬなか店内へと入ろうとする。というところでスバルは振り返った。
「ユミレオ……は、一応外でまってて。ごめんね」
ポケットの皮袋から乾燥肉を一枚取り出し与えると再び店内へと歩みを進めた。
店の中には独特の薬臭さ、そこには一人しか客がおらず、なかなか物静かな雰囲気だった。
「すみません」
少し張った声で店主に尋ねる。
店主は初老の男性で白衣を纏っている。彼はゆっくりとした動作で振り返った。
「はい?」
「えっと、酔い覚ましの薬……あんまり強くないやつお願いします。
できればすぐ効くやつ」
「ああ、じゃあちょっと時間もらえるかな、液体のを出すから」
店主はいうと身を翻し店の中へと入っていく。
スバルはその背中にはいと声をかけるとカウンターを背に店内を見渡した。
客は他に一人だけ。
赤い髪が珍しく、背格好はどことなくヒイラギに似ている。
彼の髪はあそこまで鮮やかではなかったがそれでも歳は近いだろう。
そういえば彼は元気にしているだろうか、早く一緒に旅がしたいのだけれど、それは叶うだろうか。
スバルがぼんやりと考えているとき
男がその視線に気づいたように振り返った。
気まずくなり慌ててスバルは視線を下に移す。
「あ?」
男の声。
ゆっくりとした動作で、まるで伺うような歩調で近づいてくる。
見ていたことで気分を害しただろうか。
謝るべきか、しかしそれほどのことをしただろうか。
スバルが半ば悶々と考えていると男は急に歩調を速め、一気にスバルのもとへと来ると
さり気ない動作でスバルの手首をとった。
「な!」
手首は軽々と上に持ち上げられ、あわよくばスバルの体ごと持ち上げられるのではないかという勢いである。
衝撃と驚きで咄嗟に勢いで蹴ろうかとスバルが考えた所で動きはとまる。
少々乱暴だったとはいえ手首をとられたその手はあまり強くは握られていなかったし
別に無理やりというほど強い力でもない。
何より、男の顔に満面の笑みが浮かんでいたのが一番の原因だった。
「な……」
何をする、スバルが問おうと口を開く。
男はそれよりも先に言った。
「君、もしかして」
そこできられる言葉に首をかしげる。
しかし男は先の言葉を言わない。
まるで上手く伝えることができないように困ったような顔をする。
「なんですか?」
スバルは尋ねた。
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うおお、なんだかいつにもまして良く分からない内容になった!
スバルが酒豪というのはなかなか前から考えていたことです。
なんか飲めそうだなーと思って。
ハヤテもそこそこいけるんだと思うんですが今回は少し潰れ気味なハトに合掌。
なんで飲ませたかというと結構微妙なんですが
最近そういう空気が多いから……かな?
ファンタジーなんだしなんでもありだろう!
ちなみに私はそんなに飲めるわけではないんですが。
……人並み、なの?
どうなんでしょう。
そして後半。
スバル、不信人物に声をかけられる、の巻。
だれだろうねー。フフフー。
続きは自分でも悶々としていて早く書きたいところなので
GW中にはかけるといいな、うん。
(2004/04/26...haruco)