33 父から
急に大きな音を立てて扉が開いたものだから
慌てて振り向いてみればそこには息を切らせ、今にも泣き出しそうなハヤテがいた。
「どうしようっ…スバル…!」
相当慌てた彼は挙動不審なままスバルの方へ歩みよる
船の中にある小さな書庫。
周りに誰一人としていないその空間で、ハヤテはスバルの肩をつかんだ。
船に乗ってから六日。
翌日には次の國の港につくということでハヤテは荷物の整理をしていた。
最初はユミレオと共にスバルもそこにいたのだが
ハヤテが次々と鞄からひっぱりだす品々で足場が無くなり息苦しさを感じたスバルは
「書庫にいる」といい部屋から出ていった。
あれから数十分。
いきなり書庫に入ってきたかと思えば焦ったように肩をつかまれ
そのまま一向に動こうとしない。
少し荒く息をつき、緊張したように震える彼は青ざめた顔を下に向けたままだった。
その状況に少し驚いたスバルだったかがしばらく考えてから静かにいう。
「何…また賭けに負けたの?」
数日前いきなり可愛いななどといわれたりして懲りたのか彼はしばらく賭けをしなかったが
昨日の獲物は上物の酒と熊肉で思わず参加したハヤテは即行で負け
数日ぶりにスバルに殴られることとなった。
確か昨日はいきなり「駆け落ちしよう」などといわれた気がする。
とりあえず今日も負けて「抱きしめろ」とでも命じられたのだろうか
あまりにも読めそうなだけにスバルはいじわる気に聞いた。
しかしハヤテは首を激しく横に振る。
肩から伝わる体の震えが心なしか大きくなったような気がしてスバルはハヤテの手を肩から下ろし
下から顔を覗きこんだ。
「どうしたの?」
青ざめた顔。
ハヤテはゆっくりと座り込むと紙袋を差し出した。
「箱…?」
紙袋の中には成猫がすっぽり納まってしまうくらいの大きさの箱が入っていた。
ずっしりと、とまではいかないが少し重い。
揺すってみると金属や紙などの音がした。
「何これ」
「親父がくれたんだ」
「せんべつ?
何が入ってんの?」
「……知らない」
「開けてないの?」
ゆっくりとうなずくハヤテ。
その頬を汗が垂れ落ちた。
ほんわかと笑っていたスバルの顔が少しこわばる。
「旅立つ時に貰ったの?」
「…うん」
「……旅立ちっていつだったっけ?」
「初秋第九の敬日だから…数ヶ月前」
さーっとスバルの顔が青ざめていった。
慌てたように箱をゆする。
適度な重みの中身は揺れに合わせて左右した。
「ばっか!な、な、ナマモノだったらどうすんのー!」
「旅って知ってたから生物ってことはないと思うんだけど…
……肉とかだったらどうしよう…か、乾燥とかじゃなかったら…」
数週間もつような肉であっても歓砂のような暑さでは持たないだろうし
恐ろしく湿気の高い場所で野宿もした。
さすがに異臭までは発していなかったが開ける勇気があるとは言えなかった。
ゴスッ
思わず箱を落とす。
箱は板張りの床におちると船の揺れに合わせてカタカタなった。
「……腐ってたらどうしようかと思って」
「……まさか…ねぇ?」
「か、カビとか生えてたらどうしよう…」
「……捨てる?」
「さすがにそれは…」
「……じゃあ…開けなよ」
しぼりだすように言うスバル。
ピクンと肩を揺らすハヤテ。
「一緒にいたげるからさ……」
一体どうして今まで放置しておいたのだろうか
カビだらけの箱の中、異臭。さまざまな光景を想像しつつも静かに笑ってスバルは言った。
数秒したのち、決心したようにハヤテは箱に手をかけた。
漏れたのはため息。
安堵のため落ちたそれは緊張の糸を断ち切り二人の顔に笑顔を宿した。
「よかったねぇ〜」
にっこりと笑い合う二人。
箱の中にはカビも異臭も無く、紙で丁寧につつまれた品々にはおおざっぱに品名が描いてあった。
金物、治療具、保存食。
とりあえず腐りそうなものは入っていなかった。
「…俺カビとかだめなんだよ〜ああ良かった。
見つけた瞬間オレンジ色の胞子だらけとかの箱の中想像しちゃって!」
「分かる分かる!恐いよね〜
ったく、もらったら早く開けなよ?恐いじゃんもう〜
で、中見ていいの?うちも」
「もちろん。
恐怖からも救っていただいたことだし?」
ハヤテは安心しきったように笑った。
そしてまずは保存食と描かれた包みを手に取る。
丁寧に紙を開けていくと缶に入った肉や乾燥パン、丁寧に包まれた乾燥豆に米、珈琲などがあった。
「わ、コーヒー豆。
まだ大丈夫かな?
っていうかなんでこんなものが?」
「親父が喫茶店で働いてんだよ。
だからだろ?」
「すごーい!店長さん?
ヒゲ生えてる?」
故郷の友人達の反応と似たものを感じながらハヤテは微笑む。
「ヒゲは一応生えてるけど店長じゃねぇよ。
まあ、そんなようなもんだけどさ。
正確には親父の兄さん、伯父さんの店なんだ。
今はちょっと別の國で店の展開をはかってるんだと」
へぇ、と感動したようにスバルは言った。
ハヤテの手は次の包みへと伸びる。
手に取ったのは箱の中で一番大きい金物、とかかれた包み。
中をあけると入っていたのは肉など軽がるとさばけそうな大きめの刀と小さな指輪だった。
「これは…短剣?ダガーかな」
荒荒しいナイフにも見えるそれは皮と金属でできた鞘に収まっており、抜いてみると鏡にもなれるほどの輝きを持っていた。
指を切ったりしないように気をつけながら刃表をなぞる。
手にとって色々と興味津々に調べるスバルとは裏腹にハヤテは静かに刀を見つめていた。
「どうしたの?」
「こんなもの、どうして持たせたんだろ」
「…なかなか立派な物っぽいけど…いらないの?」
「……いらないよ」
抜かれた刃の切っ先をみつめ慎重に声を絞り出すとハヤテはスバルから刀を受け取った。
なんとも変わった異国風の作りのそれは柄の部分が細い紐が何重にもまかれており、決して滑ることはなさそうだ。
緊張したように持つハヤテをみてスバルは優しく語り掛けた。
「刃物は嫌?
肉を切り裂き、傷を負わせるのがその仕事。
身を守り、保つためのもの。
使い方を誤らなければ大丈夫。
それに、使いたくないならば…使わなくてすむうちは使わなければいいじゃない。
護身用とかそういう意味なんじゃないの?
……小さい指輪」
言ってすぐにスバルの興味は近くを転がる指輪に移った。
銀色の金属で作られたそれは細い線がいくつも絡まるようなデザインで
真中にはめられた小さな透明な石は角度によって赤く染まった。
「俺の指じゃはいんねぇよ、こんなの。
細いし…小指でも無理だな…
やっぱ女物だよな…」
呟くハヤテにそそがれる視線。
そのままの表情でしばらく考え込んだハヤテはゆっくりとスバルの方をむいた。
「……いる?」
期待するような目に押されてか、おずおずと尋ねるハヤテ。
「いいの!?」
これ以上ないというくらい嬉しそうにスバルは笑うと早速左手の指にはめた。
「左手なんだ」
ハヤテが言う。
掌空で大抵の場合、指輪は右手につける。
西の方で婚姻の際送る指輪に習って左手につける者も最近はいたがごくまれなことだった。
「右手はね…ちょっと」
苦笑いしてスバルは右手をかざす。
右手の中指には絡まるように赤い模様が描かれており
それが番人との契約のものだと思い出すまでに時間がかかった。
「ああ…そっか。
…それにしても面白い石だよな。
透明だけど…薄紫かな?そんな風にも見えるし…正面からみると赤紫だ」
しばらく呆けたように石をみていた二人だがスバルは急に顔を上げた。
「あたし!これと同じようなのもってるよ!!」
慌てて自分の首から首飾りをはずす。
鍵のような形をしたそれには指輪と似たような大粒の石が二つはまっていた。
「本当だ…どうしたんだ?これ」
「もらったの。親戚から。
大事なものらしいけどね。
なんていうんだろう〜この石。
まあとにかく!ありがとう!!嬉しいよ、指輪。」
再びにっこりと笑うとスバルは首飾りを再び首にかけた。
「どういたしまして」といいながらハヤテは最後の包みをあけに掛かる。
治療具とかかれたその中には包帯や傷薬、塗り薬、錠剤、粉薬などが入っていた。
しかしどうにも包帯の量が目に付く。
明らかに多いその量にスバルは目を点にした。
「なんでこんなに包帯が多いの?」
「……さぁ?」
笑うとハヤテはあけた品々を再び箱に戻し始める。
考えても分からないスバルは考え込んだが謎が解けるわけが無かった。
「あ!」
ハヤテが突然大きな声をあげるので慌ててスバルは顔を上げる。
「な、何!?」
「俺さ!この間会ったんだよ。またアレと。」
「アレ?」
「ほら〜!前に話したじゃんか!
獅子みたいな微妙な獣!
銀色で白くて変なの!」
あぁ…とおぼろげにスバルはうなずく。
あまり印象に残ってないと見えるスバルをみてハヤテはため息をついた。
「くそ!なんで俺ばっかりに会いに来るんだよ!
お前も見てみれば絶対印象にのこるぜ!
なんで追いかけてくんだろ…」
「似てるだけじゃないの?
獅子なんてどこにでもいそうじゃん」
「あんな印象的なのは全然いーなーいーの!
ったく!俺の言うこともっと素直に信じろよ!
コノエみてぇ!」
「コノエ?」
「妹だよ。いわなかったっけか?」
「聞いた気がする。
可愛いの?」
「……さぁ?」
先ほど見せたのと同じようにおどけたように笑ってハヤテは立ちあがる。
可愛いんだ〜。冷やかすように笑うスバルは中々立ちあがろうとしない。
しかたなしに差し伸べたその手を
満面の笑みを浮かべたスバルの右手がつかんだ。
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いや〜もうすっかり忘れてましたよ!
パパンからもらった箱!!
旅立ちに際にきちんとハヤテ貰っています。第1話をごらんあれ。
け、決して忘れてたとか箱の中身決まらなかったとかじゃないですよ!一応。
やっと箱の中身も解決しまして
ハヤテから指輪を頂いたスバルは嬉しそうでなによりです。(誰ですか!ニヤニヤしてるのは!)
ああ…なんか私ばかり楽しくてすみません。
皆さんに楽しんでいただけるお話目指して頑張ります。
(2003/08/27....haruco)