31 港町 ハンカ
お元気ですか。
別れてからそう日も経っていないから、まだ怪我も治っていないんじゃないかな。
どうぞお大事に。また無理に戦って怪我とかしないようにね。
私達はあれからサナの洞窟で無事陣を回収して、ケットの村を抜け、歓砂最南端の港町ハンカに来ています。
ここから船を使って西の大陸へ向かい、まずは勢矢へと向かいます。
早く一緒に旅が出来ることを願っています。
ついて来たくなったらいつでも『掌空ノ九弐壱』宛に書簡を下さい。
では、また。
小さなため息と共に筆を置くとスバルは受けつけの女のもとへと向かう。
受付のテーブルにたった今書いたばかりの書簡ともう三通を置くと宛名欄を指差した。
「これ、書いてあるところまでお願いします」
「どのような方法でお運びしましょう」
「う〜ん…この1枚は鳥で。特に急がないので届けば早くなくて良いです。
残りの三通は一応重要書簡ということで早急に確実につくようにお願いします。」
「では、今日夕方発の馬で届けさせますね。
急げばまだ間に合いますので」
受付の女性は丁寧に言うと代金を示した。
「どうも。
これ、お金ね」
ちゃりんと音をたてて小さな銀貨を15枚ほど机の上に置くと
よろしくおねがいしますと残してスバルはそこを後にした。
「中に一緒にくれば良いのに。
ハヤテもおうちに送れば良かったじゃない、書簡」
「いいよ、別に。
どうせ俺から来るとか考えてねぇよ」
「そうなの?
まあいいや、今度は送りなよ?
折角なんだから」
店先で軽く話すと二人はすぐに商店街に目をむけた。
今回もまた仕方なく紐をつけられたユミレオはおとなしくスバルの横を歩いていたが
道行く人々はユミレオの傍を通らなかった。
「そんなに脅えなくても良いのにね、可愛いのに」
「んなこと普通に思うのお前だけだぞ」
「ハヤテは可愛くないの?ユミレオ」
「…俺ならいつでも食えるよ、そいつ」
昼下がりの町に響く怒声。
砂埃が立つほどの激しい動きの後に見えたのは
腰を押さえて地べたに横になるハヤテの姿だった。
「…何も…けること…」
「うっさい!」
肩を怒らせながらスバルは先をあるく。
慌てて立ちあがったハヤテは背中に声をかけた。
「おい!どこ行くんだよ・・!」
「船の予約!」
足早に歩くスバルはユミレオのことで少しばかり怒っているようだ。
ハヤテは肩をすくめた。
「冗談だってば本当。
なんだよ、船ってそんなに急ぐのか?」
「う〜ん。
そういうわけでもないけどさ。
とにかく船旅はタイミング逃したらうちらみたいな海知らずは完璧にアウトでしょ?
出来るときに確実に海を渡ったほうが言いと思って。」
「ここからだったら勢矢が一番近いな…どのくらいかかるかわかる?」
たずねるとスバルは少しの間考えるように腕を組んだがすぐに顔をあげた。
「1週間ってところじゃないかな。
最近は随分速い動力が出てきたからね、渡しの客船とかでも安く渡れると思う」
1週間。
ハヤテは下を向いた。
1週間かけて渡る海。
海を最後に渡ったのは随分と昔の事だ。
久しぶりの船乗りに体調的な自信がなかった。
「酔ったらどうしよう…」
「吐くか倒れるかどっちかがいいね。
うちもそんなに強くないんだけど…あんまり辛そうだったら問答無用で眠らせたげるから安心して!
ユミレオはまあ大丈夫かな…動物OKな船選ばなくちゃ!」
ハキハキと楽しそうに言いながらスバルは前をあるく。
前途に不吉な物を垣間見たハヤテは小さくユミレオと目を交わした。
結局とれた船は翌日の昼には出航というなんとも慌しいものだった。
さすがに共に渡る動物が熊ということで交渉には苦労したが
綱につないでおくこと。
昼夜ともにすぐ傍において行動するということで決着がついたが
熊がいてはまともな客室など泊まれるはずもなく、二人と一匹、まとめて空き部屋という始末だった。
「やっぱり置いてきゃ良かったんだ…クソ熊なんか…」
スバルの前で同じ言葉を呟いたならば即座に喉頭部に一発食らった後に「安いから良し」という言葉を頂いた。
確かに部屋が部屋なだけに食事付きで6泊7日で二人分にも満たない料金だが
とれた船はかなり小さいもので、客は2、30もいれば良い方に見えた。
チケットがとれれば荷物整理と共に確認、そして買出し。
整理の時に決めた主なことといてばマントについてで
夏気候のこの一帯ではマントは暑かった為、必要な時以外は細い紐で縛っておくことにした。
モーフを出るときに揃えた品物は底をつき、ケットで買った食料もなくなりつつあったので
食料や道具そして薬を補充するために午後は買出しに時間を費やした。
服に関して言えばお互いに旅装束はそれなりに値の張るものを着ていたため丈夫でまだまだ着れそうだったが
インナー等は替え時と判断し補充&処分。
そうして近くの宿を取り今にいたった。
備え付けの簡素なベッドに横になり、グローブも全て外した両腕を大きく広げる。
軽く右手を天井に伸ばすとランプの逆光でまぶしかった。
なんだか随分と歩きまわった1日だった気がする。
インナーをそろえたついでに中にも着れそうな半そで等を探していたが
一緒に見て回ったスバルはハヤテが首元と覆う服ばかり選ぶとやかましかった。
確かに暑苦しいがもう何年も着ているとそれすら良くわからなくなる。
なんだか妙な疲れに襲われてゆっくりとまぶたを閉じる。
首元をカリカリと掻くとなんともむずかゆい気持ちになった。
ベッドに寝転んだまま顔を窓の方にむける。
自身の体と窓の外になんとも異様な気を感じながらゆっくり身を起こす。
カサリ
小さく葉が揺れた。
葉の揺れたあたりをよく目を凝らしてみてみるとそこには確かに獣の影とちらつく瞳がみてとれた。
窓を開け、闇の中に見つけた影に目をこらす。
よくよく見てみると次第に輪郭ははっきりとし、獅子の体格が見えた。
「おまえ…!」
思わず叫び窓から靴に足を突っ込むと窓から外へ踊り出る。
1階でしかも町外れ、森に面した位置にある部屋だったためすんなりと着地するとハヤテは身構えた。
「なんでこんなところにいるんだ」
ゆっくりと近づけば益々各部がはっきりと見えてくる。
旅をはじめて何度か会ったあの白銀の獣に相違無かった。
「…?」
獣は何も言ってこない。
ただ低くうなってハヤテの方へと近づいてきた。
白銀の獣は月の光にてらされ白く浮かび上がり、薄紫色の瞳もまた同様に夜闇に浮かび上がってくる。
獣は体を低くしてハヤテの足元へとやってくると身を伏せ大地からハヤテを見上げた。
「どうした」
ゆっくりとハヤテは片膝をつくと慎重に右手を獣の額に乗せた。
驚いたことにその体は冷たく、ひんやりとした空気が掌を通じて体内に流れてきた。
しかしその冷たさは決して凍えるようなものではなく、なんだか落ち着いた気持ちにさせる
安心するような優しい涼やかさのものだった。
しばらくされるがままになでられていた獣だったがふいにピクンと耳をそばだてると顎を傾け
それまで頭をなでていたハヤテの右手に自身の鼻元をおしつけた。
「なんなんだよ今日は…」
過去ではそれまで断片的な言葉を読み取らせしかしなかった今日は獣は何故か急に人懐こくなり
まるで自身のことを教えるかのように変わらず鼻元から耳にかけてをハヤテの右手に押しつけた。
ふとハヤテは気づく。
この獣は自身のことを教えようとしているのではなく、逆にハヤテのことを知ろうとしているのだと。
グローブも何もつけずに獣に直接触れる手は心地よい感覚に見まわれ無駄な力の入らない状態になっていた。
「……」
ハヤテは無言で自分の右手と獣を見る。
「今日はなんなんだよ…どういうつもりできた」
獣はその透き通った瞳を真正面からぶつけてきてから小さく喉を鳴らした。
じっとその瞳をみつめていると獣は最も伝えたいことがあるというように瞳を大きく見開いた。
「…っ!」
するとその瞳の色は薄紫から一気に琥珀色へと変化し、思わずハヤテは息をのんだ。
圧倒されているとすぐに獣は目をふせ、次に瞳を開けるときにはもとの色に戻っていた。
かるく耳を何度か動かすと意思を伝えるかのように何度か喉を鳴らすと
獣は素早く体を起こし身を翻す。
そのままの流れで森へと走る。
「まてよっ」
呼びとめるハヤテの声。
獣は足を止めたが無駄なことをはなすつもりは無いとばかりにすぐに顔を森の方へと向けた。
「お前、名前は?」
震える声で、紡ぎ出した声。
獣は月に向かって一声吠えると目にも止まらぬ早さで駆けて行った。
その獣の声はハヤテにしてみれば耳から心へ、直接響く深い言葉であり
今までいくつも流し、傾けてきた言葉より深いものを感じた。
少し語った獣の、最後の言葉、彼の名を思い出す。
「カニス…」
琥珀色の瞳が、目から離れない。
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31話〜!
進むのがすごい遅くて申し訳ないです。
と!いうわけでー!!次は皆さんのテンションを高くすべく今から策をねっていますヨ!
気長に待ってやってください。
ちなみに気づくか否かの微妙な感じですが
いつも誕生日の品がおくれてしまって申し訳無いあの方へ
私はあなたの誕生日を忘れてはいませんよ、という意味をこめて。
…本当に微妙でごめんなさい。
そして今回のお話。
ヒイラギさんにお手紙をだしました。
ちなみに後の三通は掌空・泰海・歓砂の王様当て。
あと国が11…まだまだ先は長そうです。
なかなか旅の支度のところとか買出しとか書いていると楽しいです。
遠足のしたくとか大好きだ!!
(2003/08/03....haruco)