30 会話
目を開けるとそこは洞窟の外。
以前味わったのと同じ浮遊感で微妙な気分になりながらハヤテは大きく伸びをした。
「うぅ・・」
折角天井のないところにでたというのにスバルはうしろでぐじぐじといっている。
辛そうに背中を丸めていた。
「なんだよ」
「うぅ…う…」
相変わらず辛そうな声。
折角陣を受け取りまた知らない間に洞窟の外に出してもらえたというのに
爽やかな空気と暖かい日差しを前にスバルはひたすらうなっていた。
「おい」
呼びかけても、うなったまま。
あまりにうざったいので放っておくことにきめるとまた1つ、大きな伸びをした。
しかし時間の感覚がにぶっている。
洞窟の中で数日過ごしたのだろうか
腹の減り具合と日差しの傾きがハヤテにそう思わせた。
「うぅ…」
何分たっても、相変わらず後ろから聞こえる声。
「ああ!もう!!
うぜぇんだよ!
なんだよ、お前!」
「うぅ…
…あた…たい」
「鯛?」
「頭」
「なんだよ、頭が何?」
振り向き近づくとスバルはますます背を丸め
頭を押さえる。
少しばかり可愛そうになり、ハヤテは口調を緩めた。
「頭が…何?」
「痛い」
「あ?」
「うぅ…」
再びうなりはじめる。
なんだよ、頭痛か…
しばらく狭いところにいたからだろうか。
声や動作から見て取ると瀕死というわけでもなさそうだ。
と、いうよりスバルが頭痛で苦しがっても
堪え性のなさからくる辛さにしか見えなかった。
これがマリちゃんだったらなぁ…
もうかなりの日にちがたったが以前スバルと間違えた娘を思う。
美しい髪、ゆるやかな笑顔、優しい仕種、暖かい目元。
思えば思うほどむなしくなった。
「まあいいや。
おい、立て、この野郎。
あの婆さんの小屋いくぞ」
気を取り直して振り向いて言う。
それでもスバルが動こうとしないので
しかたなくハヤテ片腕を掴み引きずり出した。
「…めて、…ってくれてもいいのに…」
下のほうから漏れる声。
相変わらず辛そうだがそこに含まれる何かに気づき、ハヤテは眉をピクンと上げた。
「あ?」
「せめて…」
「…?」
「おぶってくれても…いいのに」
漏れるため息。
「ざけんな」
再び、少年は少女を引きずりだした。
「すんませぇん」
「ああ、いいよ。
はいんな」
以前見たそのままに、ユミレオを椅子の足元に眠らせ
体を揺らせていた老婆はまたしても特に振り向くことなく言った。
「こいつ、傍にいて平気でしたか?
暴れたりとか・・」
「心配ないよ。
お前はどうせそんな心配全くしなかっただろう?
大丈夫、私の話し相手になってくれていた」
ゆっくりとユミレオに視線を移し老女が言うのでハヤテは安心したように肩を下ろした。
洞窟の中であったことを軽く話す。
そして老婆は自分のことをはなしてくれた。
その老婆は長いこと洞窟の近くに住んでいて、その生活は何十年も続くようだった。
娘の頃にこの地で出会って以来、離れられない存在がいると語る。
「それは誰?」
相変わらず頭を押さえながら小さく床にうずくまるスバルの頭をなでながらハヤテは聞いた。
「さあ?名前なんか知らないよ。
ずっと前から洞窟にすんでいるんだ。
私なんかよりもずっと昔から。
それはもう特別で、ある意味存在しないかのように薄く。
よく私と語らうのだよ」
うっとりと、目を細め老婆は窓の外を見つめた。
日の光が優しく入りこみ、その瞳が緩やかに青く揺れる。
まるで恋のような、愛のような。
深い感情が読み取れた。
「お前達も会ってきただろう?
そして、その一部と話しただろう?」
優しく告げる声。
ハヤテはハッとした。
老婆が感じ、交わし、話す者は"陣"。
長い年月の中で深く係わり合い、ゆっくりと共にあったと知った。
「洞窟の中で会ったものがそうであるならば。
…このちっこいのが、それの一部と契約を」
「契約?」
「共に、あると」
喉を通り、意とせずついて出た言葉。
あまりにすんなりと出たその言葉にハヤテは自分で違和感を感じた。
「ほう」
目の前で小さな感嘆の声。
そしてまたゆっくりと微笑んだ。
「それではお前達もまた彼らの友なのだね?
それはすごいことだ。
善かれ悪しかれ、彼らは大きな、それでいて薄い者達だから」
またゆっくりと、老婆は微笑んだ。
幾分かましになった頭を何度か振り、目をあけてみれば世界は横に見えていて
自分が横になっているのだと知るのに時間がかかった。
頭がはっきりとしないせいかよくは分からないが時刻は既にもう夜で
ハヤテは老婆と語らいながら夕食をしていた。
「…」
なんとなく疎外感を感じながらゆっくりと身を起こす。
二人はそれに気づかないようで、ゆっくりと食事を続けていた。
「あの、娘は」
ぴくりと動きを止める。
スバルは再び横になると背を向けたまま耳を傾けた。
「あの、娘は決して楽ではないだろうね」
「何が?」
ハヤテの声。
「言うなれば、生きる道が。
この子が少し話してくれた。
どんな目をしているのかを」
「ユミレオが?」
はっとするような声。
ハヤテは急くように見を乗り出した。
「こいつが、教えたのか?
聞き取ったのか?」
「教えてくれたよ。
あの藤色の髪、藤色の瞳、きっと良くないものをまねく」
「良くないもの」
「それはお前にもふりそそぎ、いろいろなものを辛い目にあわす。
人だけでなく、少ない数でもなく。
陣を求め、何をする?」
喉を鳴らす。
ハヤテは食事をする手をとめ、ゆっくりと老婆をみた。
「果たして俺たちの知るところなのかはわからないけれど。
陣を使い、富みが起こるのをまっている」
「富み、ね」
悟っているかのようなためいき。
そこには少しばかり嘲笑が混じっていた。
「その富みすら、犠牲無しには得られないものだろう。
だいたい伝説やらで言えば富みが生まれるかも分からないのに」
「陣を集めるのが何に繋がるのか知っているのか?」
「知らないよ。
知るわけないよ。
ただ良いことが起きると思わないほうが良い
悪いことが起きるとも言わないけれど
陣をつかって金が出てくると考えているわけじゃないだろう?」
考えてみれば。
国司の命として陣を集めてはいるが、伝説の陣が集まると富みがもたらされるという噂はあるが
果たしてどうだろう。
隠された財宝がいきなり出現するなどとは思えない。
そうだとしても、陣を使わせるなと番人に言われたばかりなのに。
陣を使うことは良くないことが起きるからだと感じたのに
ハヤテは困った顔をした。
「楽しい食事の合間にこんな話はよくないね。
あの娘も寝ている…ようだし。
ただ言っておくと、やはり良くないことがありそうな気がするよ。
あの娘には。
それでもお前はいくのかい?」
小さく
手を握る音がする。
小さく
息を呑む音がする。
しばらくしてから顔を上げ
眉を下げ、ハヤテは笑った。
「だって持つって言っちゃったもん、俺。
あいつといて、良くないと感じることはないよ」
衣擦れの音。
スバルは自身にかけられた毛布を身に引き寄せ頭から被り
静かに笑った。
翌日、結局昨晩夕飯を食べることなく眠りつづけたスバルは恐ろしい量の朝食を平らげ、旅支度をした。
眠い目をこすり、小屋の外に出て伸びをするハヤテとその横に座るユミレオを見ながらスバルは老婆に声をかけた。
「そんなに、不幸をまとっていそうに見える?」
「…さァネ」
おかしそうに老婆は微笑んだ。
食器を片付ける手がとまる。
ゆっくりと振りかえり室内に一対一、スバルと向き合った。
「ただ、陣を集めているからだろうかね、よくない感じがする。
あの陣が富みをもたらしてくれたとしても、そのかわりにお前が何かを失いそうだからかね
術者とはそういうものだよ」
指についた長年の糸の跡。
スバルはそれを見とめると自身のものと見比べた。
「あの陣を、集めたことが?」
「ないよ。
手を出してはいけない物だと感じたからかね。
…まあ、国司としての役割は陣を集めること、使うことじゃないようだ。
上手くおやり」
にっこりと笑う。
スバルは靴をきゅっとしめると老婆を真正面から見つめた。
「はい」
朝日のせいか、妙に輝いて目に焼きついたその笑顔。
老婆は笑顔を深め、スバルの手を取り言葉を告げ
優しく背中を押した。
「きっとお前は一人じゃない
気をつけておいき」
その声の、なんと優しい事か
耳から離れぬ声に押され、二人と一匹は再び歩き出した。
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はい!というわけで無理矢理GW中に書き上げました!
空旅第三十話です!
30!30!
わ〜すごい。
と、いうわりに話は半分も進んでいませんが。
いつも以上にのろい変わりに、いつも以上に普通の人らしい行動をさせてみました。
いくら旅人でも穴に落ちたり、熊に襲われたりってあんまりだよなぁ…
今回の老婆。
前にもちょっとでてきましたが、なんとなく「おばあちゃん!」って感じにしたかった(何)
名前が決まらなくて結局最後まで出てきませんでした。
きっと仲良くご飯をたべたハヤテやスバルですら知らないんでしょう。
しっているのはユミレオだけ?
まあそんなのもいいさ。
きっといいさ。
(2003/05/05....haruco)