BETWEEN 30 and 31 藤色の花
季節の狂った土地で。
彼女はふと呟いた。
「藤の花だよ」
歓砂の陣を無事回収し、次の土地へ向かうため南へと歩みを進めていると
旅人達の前に広がったのは小さな村。
ケットという名のその村は小さな村は商店街を中心として四十ほどの建物でできており
広い敷地を持つ村だが中心部位外は密集しないため閑散と、しかしこじんまりとした村に見えた。
村の東西南北にはそれぞれ不思議な庭園があった。
そこは庭園というほど整っていたわけではなかったが
野原というほど荒れているわけでもなく、方角により違う季節の草花で溢れていた。
食料を買い足し、観光がてらのんびりと歩く。
口数も少なく、のんびりと散歩をしていたとき、目に薄紫の花がとびこんできた。
「なんだ?この花」
高い位置に絡まり雲の下を這うように左右に枝を広げ緑の葉と薄紫の花を葡萄のようにたれさげる
見たことの無い植物にハヤテは目を奪われた。
「驚いた」
「え?」
スバルの漏らした呟きに振りかえる。
「今の季節に見れるものじゃないんだよ」
季節は冬。
国土の大部分が熱帯地域である歓砂は冬でもさして寒くならず、故郷の春ほどの気候だった。
照りつける太陽が弱まったのとうだるような暑さが引いたのには随分助かった。
「いつの…っ季節に咲くんだ?」
精一杯跳ね、花に触ろうとしながらたずねる。
枝はハヤテのはるか頭上にあり、そこから垂れ下がる花ですら手の届かないところにあった。
「春…いや、初夏かもね。
名前、知ってる?」
見たことすらなかったのだから、とハヤテは首を横にふる。
スバルは唇から空気を漏らすかのように静かに呟いた。
「藤の花だよ」
言われてみればその花は薄紫でまさに藤色。
色から名前が来たと想像できた。
「聴いた話だけど…この名前はね、ちょっと風が吹いただけでも振り散るから
ふじとついたと聴いたよ。
ちょうどうちの誕生日の季節にいつも咲くの。
これをきちんと棚をつくって絡ませると見事なものなんだよ。」
視線の向こうに思い出をちらつかせる。
藤の花散る空には霧が無く、涼やかに晴れた初夏が見えた。
「お前春生まれなんだ」
「初夏って言った方がいいかもね。
五の月の下旬。
ハヤテは?」
「俺?
俺は真冬。二の月だよ。
掌空じゃそのころ雪がふるだろ?
そこまでつもりはしないけどさ、だいたい毎年俺の誕生日とかなると白い1日になるんだよ。
寒くてたまんないけどな。
雪は好きだからいいよ」
目を閉じるとまぶたの裏に白い景色。
思いを馳せ、息を吸うと藤の香りが広がった。
「あたしも!雪好き。
掌空には何年もいつもいないからわかんないしあんまり雪を見たこともないんだけどね。
大好き!白くて冷たいのがいい!」
地に薄く積もる散り落ちた藤の花びらを雪に見たて両手で掬い上げる。
こぼれんばかりに高く盛った花びらは風が吹くと美しく、再び空をまった。
「見て!雪みたい」
「うん」
冬でも雪を見ることなどないであろう歓砂で。
藤の雪をみる。
「誕生日みたいだ」
生まれた日。
御祝いの日。
そこまで大勢に祝ってもらったことなど無いけれど
ささやかな祝いの言葉と少し豪華な食事
優しい笑い声と大きな掌。
舞い散る藤の花は以前過ごした温かい時を思い出させる。
スバルは顎をくっと上へむけた。
「ねぇハヤテ!」
両手を広げ軽く走る。
「んー?」
心地よい風に花に誘われて土を覆い茂る草の上に身を横たえて、返事をする。
嬉しそうに、楽しそうにスバルは空を見ていた。
その視野には藤の雪。
「きっとうちの誕生日には何か頂戴?」
「え…嫌。」
「いいじゃないのさ!
ね?うちもなんかあげるよハヤテの時に」
少し面倒くさいねだり越え。
しかし身を起こし見てみればあまりに嬉しそうに藤を見る横顔。
小さくため息をついた。
「…いいよ」
どのみち自分の誕生日の方が早くくるのだ。
あと二、三月もすれば恐らく何かもらえるのだろう。
もらえたらお返しという気持ちで何か上げ
もらえなかったら同じく何もすることなく
きっと時をやりすぎるだろう。
さて、自分はこの横顔にいったい何をよこすだろう。
「気持ち良い」
爽やかな風に髪を揺らし重苦しいマントと荷物を地に置き
軽やかに両手を広げ、まぶたを閉じる
思いきり呼吸をし、風を感じる
当然のように流れ出た言葉は耳をくすぐり流れていった。
「さて…」
言い、もう一度身を横たえる。
そしてゆっくりと目を閉じた。
今日はここで人休みといこう。
これほどの気持ちのよい1日を存分に感じるなんて事は滅多に無いだろうし
なにより気分の良い時を味わっていたいから。
再び藤の雪見ることを夢見つつ
さらなる笑顔の輝きを望んで
しばしの休息の時を
BETWEEN話ということで結構気楽に。
本篇では全然時間が進んでおりませんがうちら的にはとうに過ぎた5/20。
忘れていたスバルの誕生日にごめんねとおめでとうをこめて。
それいっちゃうとハヤテだって忘れてたんですが。
まあ、いいさ。
藤の花。
散る様が雪のように見えたことは無いんですが(なかなか散るところを見ません)
たとえば桜みたいに、風にゆれて散り行く様をみたならば
雪と同じ気持ちになるのでしょう。
…東京だと滅多に雪が降らないのでこんなことが言えるのかも知れませんね。
でも北海道とかいくとあまりに白くて感動しました!
寒くて死にそうになって怖いけれど十分に暖かい格好をした中で見る雪は大好きです。
(2003/06/22....haruco)