29 二人目の番人



静かにこすれば石の扉についた土はいとも簡単にとれた。

ゆっくりと笑うとスバルはハヤテを見る。

ハヤテはその笑みに答えるようにうなづくと扉の前へ進み出た。

右手をゆっくりとあげ、以前書いたように空の陣をかく。

数秒したのち見てみれば陣は淡く光り、熱を持った。

「…開くかな?」

「開くんじゃねぇの?」

ギィ…

二人の会話に答えるように扉はゆっくりと内側に開く。

恐る恐る中に入ってみるとそこには既にもう陣が浮かび上がっていた。

「うわ・・」

思わず後ずさりするスバル。

床に描かれる陣の光量たるやすさまじく、ふいにみたとあれば目が焼けるほどに思われた。

「ま…ぶし。

 おい、だいじょうぶかよ」

腕で目を覆いながらハヤテはスバルにたずねる。

ゆっくりとスバルは頷いた。

しばらくすると少しばかりなれ、目を細く開ける程度で大丈夫になる。

二人とも平気そうになったのを確認してハヤテはため息をついた。

陣を見てみれば確かにスバルが以前言ったように円形の陣の一部分だけ浮かび上がったような印象をもつ。

これもまたやはり陣の1/12であることをなんとなく察した。

「これでまた1ピース揃いそうだね」

明るい声でいうがスバルは腑に落ちないというような表情をしていた。

「どうした?」

「いや・・なんでも…

 ただ、こんなに簡単でいいのかな、って。

 もうすこし、アガの洞窟の時は苦労したような気がするんだけど…」

いいじゃん別に。

ハヤテが言おうと顔を上げたとき、動きが止まった。

視線の先には赤い光。

陣の真上に静かに佇み、冷ややかな目で二人を見つめるのは人の形をした光だった。

そう、まさしくアガでみたような。

ゆっくりとスバルは口を開いた。

「この…陣の、番人?」

ゆっくりとうなずいて返事をしてくる。

スバルは首をかしげた。

「アガにいた人とは・・ちがうよね?」

「違う。

 お前らは見分けることもできないのか」

放たれた声は以前聞いたものより甲高く、凛とさすような響きをもっていた。

「陣、もらってもいい?」

「…」

「この間の人にはちゃんとなんていうの?身元も明かしたし。

 もらってっていいよみたいなことは…言われたと思うんだけど・・」

だんだん自信が無くなってきたのか声が小さくなってくる。

ハヤテは一歩下がったところで腕を組み、番人を見ていた。

 サリ・・

まるで砂が動くような音を立てながら番人は近づく。

二人は軽く、身構えた。

「もとは1つだから…同じといわれても否定は出来ないが…

 あいつはもう少し背が高いだろう?声が低いだろう?」

言われてみれば確かにその通り。

声が違うようなだけでなく、背もまた違っていて

こちらの方が幾分か小さく見えた。

「可愛い感じがする。

 子供みたい」

目の前の番人よりも遥かに子供らしいスバルを見てハヤテは突っ込もうかとなやんだが

いらぬ手間をかける気にもなれず気難しい顔をするにとどめた。

「馬鹿をいうな。

 お前の数十倍、上をいく自信があるぞ」

「ちなみに番人さん、おいくつで?」

「歳なぞあるか、馬鹿ものめ。

 尽きるまで力の源でありつづける俺らに年齢などという計りは無い。

 …が、創造主に番人として定められた事を言うのであれば…

 あれは…いつのことだろうか…確か、1つの國が消えた頃」

「その國!きっとあれだよ。

 掌空王が見つけたがってる陣を集めると出るって言う國!

 15國目のことだって!きっと!!」

急にハヤテに熱が入る。

拳をきゅっとにぎりスバルに嬉しそうに語りかけた。

しかしスバルはというと燃える様子も無くそうかもね、と静かに受け流した。

「伝説で言うならば…500年くらい前だね」

「長いのか?それは」

「500年…?

 そうだね、うちらが生きて、死んでを…6回ぐらい繰り返せるよ」

眉を下げてスバルは笑った。

死という言葉にぴくんと眉を跳ね上げて番人は一息ついた。

「陣をとりにきたんだな」

「そうだよ、王様にいわれたの。

 わかるでしょう?掌空。

 一番東の國」

「わかるよ、私達を定めた人もそこの大事な人だったからな。

 陣ね…こんな小さなかけらをなぜ求める」

「言ったでしょう?」

ゆっくりと息をはく。

寂しそうに目を伏せる。

手を腰にあてる。

「王様がね、集めてくれとたのんだの。

 それに…いくら小さなかけらでも…12個集めればなにか大層なことが起きそうじゃないの」

「これが分割されたものだと知っているのか。

 大層なことか…

 私達にとっては力を流すだけで関係ないことだが、それではこちらがどうなるかもわかるまい。

 お前が軽く扱うような力じゃないぞ」

「…?こちらってどういうこと?」

「こちらの世界が。

 私達はこの裏に、この上に、この外に、この中にいる。

 力を求められたときにだけこちらへ来て、契約を交わし、見届け、力を渡す。

 その代わりに、お前達の力を。

 こちらの冷たさに触れて、かえる」

そんなこともわからないのか。

軽く見下すように番人は告げた。

二人ともいささか納得いかないようだったが、しばらく考えた末に口を開いた。

「とにかく、陣を頂戴。

 集めなくては、頼まれているのだし」

番人は考える。

手を顎にあて、しばらくうつむいていた。

「良いだろう。

 どうせただのかけらだしな。

 大きいやつが許可をだし、見届けたのならば問題ないだろう。

 ただ覚えておくんだ」

しっかりと番人はスバルを見た。

「陣を集めること、陣を完成させること、陣を使うことは絶対にお前のためにならない。

 これだけは絶対に覚えておけ。

 そしてやめることができたならばいつでもやめるんだ」

「それは…私が陣を使うから?

 あまりにも大きな力をつかうから?」

「…そんなこと俺に聞くな。

 それと…俺がお前につく事になる。

 覚えておけ」

一瞬口篭もる。

スバルは驚き、目を見開いた。

「え!?どういうこと?!」

「うるさい、大きな声を出すな。

 陣を集めているんだろう?

 力を引き出すのを誰がやるっていうんだ。

 それが番人の仕事だ。」

「え・・?だって番人って沢山いるんでしょ?」

「ああ、いるな」

「アガの洞窟の人はどうしてうちらに着かないの?

 あの人のほうが先にあったよ?」

「あいつは…」

番人は下をむいた。

「あいつはもう主人をもっている。

 十分仕事はしたんだよ。

 だから一度も主人を持ったことが無くて、契約を持たない人間に出会ったならば

 俺はそいつと契約するわけ。

 とにかく番人の誰かをつけなければお前が完成した陣を使うことは出来ないぜ?」

スバルと同じが、それより少し高いかというくらいの背の高さをした番人はスバルを睨んだ。

「なあなあ」

そこにゆったりとハヤテは割って入った。

すっかり話に置いていかれ気味ではあったがスバルと契約うんぬんという流れになり

少しは距離の近い番人になりそうなことを感じたのでハヤテは思いきって番人に触れてみた。

暑くは無い。

ただ肩に置いた掌からなにかじわじわと染みこんでくる感覚がした。

「なんだ」

「番人ってさぁ、普段なにしてんの?」

「はぁ!?」

いったのはスバル。

場違いな質問に思わず間抜けな声をだした。

「気になるだろ?結構」

言われてみれば、確かに。

「普段というのは?」

「こうして、陣の前で誰かに会うとき以外」

「寝ているよ」

「あ!?」

「あちらに帰って。

 みんなひとところに集中し、ただ在るんだ。

 そして呼び声を感じたときにそこから自然と出てきて力をだす。

 お前らは何気なく水の陣やら使うだろうがそのたび俺らはひとところから出て力を送り出しているんだぞ?

 俺ならば契約はしていないからこうして誰かがこの扉を開いたときに出る。

 それまでは意識も無い、思考も無い。

 ただただひとところに在るんだ」

なんだか微妙に哲学的な話のような気がしてハヤテは首をかしげた。

「お前とスバルが契約すると、どうなるんだ?」

「統べて集まったときに陣が使える。

 というより、完成して使ったときに俺に声が届く。

 後はこの分割されたかけらを別のところで見つけたときに俺が気づく。

 そんなところかな」

「っていうと…」

スバルはハヤテの肩を押しのけて頭を横にちょこんとだした。

「違うところでこのシリーズの陣を見つけたらそのときは番人としてあなたがでてくるの?」

「そうだ」

「そこの担当の番人さんはいないの?」

「お前達が何を考えているのかはわからんが

 …そもそも担当などはない。

 呼ばれたから、いくだけ。

 俺のように契約してなければ声に答えるやつがいなかったらひょっこりひとところから出ていくだけだ」

「契約していればその番人がかならず声に答えるって事?」

「そういうこと。

 1つの陣にひとつの番人。

 こんなにきちんと契約するのはよっぽどの陣で無いとないだろうから

 …お前らはいつも陣を使うとき無理矢理番人ごと一所からひっぱりだすからな

 こっちも勢いがついて反発するんだ」

陣の飼いならしのことが頭をよぎり、二人は納得した。

「まあいいや、じゃあ契約ね。

 なんかするの?

 あ、あれだ、血で契約したりするの!?」

「阿呆」

少年の姿をした番人は軽く言い飛ばした。

「血など好かん。

 契約には名前で十分だ」

「名前?」

「お前、そっちの藤色の。

 お前なんていうんだ」

「スバル」

「正式には?」

「スバル・アルゲッタ・ミシットランド」

長い名前。

以前思ったことを再びハヤテは思った。

番人はというと目を伏せスバルの手を取る。

そして膝を付き中指を両手で自分の頭上高くあげた。

「え?」

スバルが驚く間に番人は素早く言葉を紡ぎふと立ちあがった。

「何?!え…?」

一瞬の出来事にスバルは驚き思わず自分の右手の中指を見る。

「あ…」

中指には赤いあざ。

蛇のように細く指に絡みついていた。

「なにこれ」

「うるさい、ごちゃごちゃいうな」

スバルの問いにも答えず番人はハヤテの方を向いた。

「おい、お前」

「何」

ハヤテは突然呼ばれたことに動じもせず番人をにらみ返した。

番人は軽く浮くように2歩3歩とあるくとハヤテの首に手をあて自分の方へとひきずりよせた。

「わ!…んだよ…!」

「黙れ」

ひっそりと耳元でつぶやく。

「お前はあの娘と旅をするのか」

「…だったらなんだよ」

「決して…いや、できるかぎりでいい。

 陣が完成しても使わせるな」

「…?」

「あの類はきっと使ってしまいそうな気がする。

 お前がとどめろ」

番人があまりに気をこめた声でいうので

思わずハヤテは頷いた。

そのときの焦燥感をなんといったら良いだろう。

番人がハヤテを突き放し、再びスバルへと向いても

ハヤテは一人立ち尽くすしかなかった。













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わー!またしても『私の世界』!!

ハル子しか分らない流れで申し訳無いです…

それにしても今回の番人はえらく私好みのようです。

あれだ!生意気で何気に切れ者な少年。

中身は歳食った感じ。

描いていてとても楽しかったです。

ひたすら会話なお話でした。

次こそハヤテを前にだすぞー!!









(2003/04/18....haruco)