21 モーフの道具屋
「いらっしゃい」
そう、静かに告げたのは穏やかな老人の声で
二人が背の小さい老人を姿を見とめたのは声が聞こえた後だった。
「こんにちわ」
小さく背をかがめてカウンターの老人にヒイラギはいう。
頭のてっぺんでまとめた白髪にクリーム色の服、くすんだ赤のスカーフを巻いた小さな老女は
小さなめがねをゆっくりと上に持ち上げてからヒイラギをみた。
「ああ、お前か」
ぶっきらぼうに告げる声。
「今日はちょっと知り合いをつれてきました」
持っていた本に視線を戻そうとした老女をひきとめるようにヒイラギは告げる。
ページをめくる手をとめ、そこにすりきれたしおりを挟むとゆっくりと老女はスバルたちの方を向いた。
「彼らです。
左の小さいのがスバル、右のアズマガオのがハヤテです。」
二人は小さく会釈をする。
「こちらがこの店のオーナー、フエさんだ」
ヒイラギは老女に手を向け、小さく言った。
まず二人が驚いたことはヒイラギがフエに敬語を使っていたこと。
さらに店の中にはありとあらゆる道具がおいており、棚は崩れんばかりに物でいっぱいだったこと。
そして老女がスバルを見て目を細めたことだった。
「あの・・・、何か?」
長い間降りた沈黙に耐え兼ねたようにスバルはいう。
フエは一瞬目が覚めたようにまばたきをするとにっこりと笑った。
「めずらしいこともあるものだね
もとからうちには馴染みの者しかこないものだがまさかヒイラギが知り合いをつれてくるなんて
照れ屋で人見知りの激しい小坊主が」
「フエさん・・・そんなこと言わないで下さいよ」
照れたような赤い顔。
楽しむようにフエは笑った。
「本当のことじゃないか、え?そうだろう?
さらに来た客が藤色の娘と来た」
もの珍しそうに、フエは覗く。
「珍しい・・・色ですから」
遠慮したようにスバルは言う。
照れたように急ぎとかされた髪はさらさらと揺れた。
「いやいや、そういうことじゃないよ。
昔知り合いにそういうのがいたものね。
まあいいさ。
こうして藤色の民に会えたのも何かの縁。
お茶でもだそう、ゆっくりとしていきな」
フエは奥へと三人を案内した。
ハヤテはというと先ほどフエのいった『ヒイラギが照れ屋』というのがよほどヒットだったらしくこらえながらも笑っていたし
ヒイラギは照れたように眉をよせ、笑うハヤテをスリッパではたいていた。
スバルは『藤色』という言葉に困ったようにとぼとぼと歩き
フエはあるく途中、店と家とをつなぐ通路の壁にある棚から香茶の葉を取り出した。
三人が座ってほどなくしてはこばれた茶はほんのりと花の香りがしていて
それと一緒に運ばれた焼き菓子にスバルは顔をほころばせた。
「わぁ!ラドリフ!!
私大好きなんですよ」
「この辺じゃよく焼くものなんだよ。
夫が作ったものなんだよ・・・今はちょっと出かけてるけど、まあよかったら食べておくれ」
ゆったりと告げる声。
聞えるや否や嬉しそうに笑い、スバルは菓子を食べ出した。
平たい棒状の生地に砂糖細工を埋め込み、焼けた後に歓砂でとれる赤いルフの実をつぶして塗る。
ラドリフは歓砂の家庭菓子であった。
ジャムのように赤く輝くルフのペーストは甘く、口にほおばれば香りが広がった。
止まらないとでもいうように二本三本と勢いよく食べるスバルをみてハヤテもおそるおそる食べてみる。
甘いものが苦手なハヤテは一口食べて微妙な顔をすると残りをスバルの口に突っ込んだ。
「んご・・・あにすんのさぁ」
「ごめん、食って。
駄目じゃないんだけど俺それ無理」
二人をよそに静かにヒイラギは食べる。
そんな様子を見てフエは笑った。
「まあいいさ、たんとお食べ。
うちの旦那はこの辺で屋台の菓子屋を趣味でやってるもんんだから
あまったものがたくさんあるんだよ。」
口いっぱいにラドリフを詰め込み、たまらなそうにスバルはぶんぶんと縦に首を振った。
残る二人があまりに黙々とラドリフを食べていたためフエは笑ってハヤテに言った。
「あんた達は何、旅をしているの?」
「ああ、はい。
掌空の国司でちょっと陣集めをしてます。」
「へえ、陣厚めを」
面白そうにフエは眉を寄せる。
組んでいた手をゆっくりとほどき、前に少しだけ、のめり出した。
「それで?そっちの娘は名はなんていうんだい?
掌空の国司とはいっても掌空の出ではないんだろう?」
「あ・・・はい」
慌てて口の中のものを飲み込む。
「小さいころからちょっと旅をしていました。
それで今はたまたま掌空にいて、国司を希望したら受かったので国司をやています。このハヤテと一緒に。
あ・・・名前は・・・・スバルです。
スバル・アルゲッタ・ミシットランド」
「長い名だねぇ・・・でも面白いものだよ。
奇麗な髪だ。
伸ばせばさぞや美しかろうに」
照れたように下をむく。
髪を小さく梳かすとスバルは苦笑いした。
「邪魔なもので。
ちょっと前まで長かったんですけど・・・腰くらいかな?うん。そのぐらい。
この髪の色、藤色っていうんですか?」
「ああ・・・紫煙とも、薄紫ともいうだろうけどね。
昔知り合いから聞いた色さ。
藤の花に染まった色だから、藤色。
西のほうの生れだろう?」
「いえ・・・あんまり詳しくは・・・」
小さく首を振る。
二人の会話を、興味深そうにハヤテは聞いていた。
「藤色の知り合いってのは…出会ったのは五十年くらい前か。
お前みたいな奇麗な髪をした娘でね、ちょうどあたしが旅をしていた頃出会ったんだ。」
「旅を・・・」
「そう、旅を。そうとう西の方に行ったところで会ってね、
そこにはそう多くはなかったけれど・・・二、三人は藤色の者がいたよ。
小さな島の様な街で。ちょっと怪我をしていて・・・介抱してもらったんだ。
大変霧の多い街でね、霧の晴れるは一、二時間しかなかった・・・」
フエの語る話しは続く。
「一日のその僅かな時間の間だけ、街に降りるのを許された。
それ以外は危険でよそ者は外を歩けない。
その街には藤色の者よりもむしろ黒い髪の者の方がおおかったかな。
そう、そこのあんたのような深い翠の瞳をして。
石造りの家に暖かい編み物をたくさん敷いて、塔のような建物に住んでいた。
なかでもあたしが世話になったのはとても高い塔でね、作りも複雑で、その娘無しでは迷ってしまうほどだった。
本当に不思議な所だった。
もちろん水もあるし文化もある。
ただ街というよりも・・村とかそういった方がいいくらい小さくて、ゆったりと暮らす土地で
掌空のように、羊をたくさんかっていたよ。」
フエは笑った。
はじめて聞く事に三人は目をまるめ。
ハヤテは小さく笑った。
「すごいじゃんか、そこ。
いってみたいなぁ・・・あんまりみない色だから、スバルそこの出身かもな。
いつか行ってみたいよ、そこ。
西か・・西ねぇ・・・この辺じゃ全然遠いしなぁ・・・ルートからいけば最後の方か・・・
大陸沿いに行けばたどり着くだろうし!いこう!スバル、行こうな!!」
嬉しそうにはしゃぐハヤテ。
フエの語る言葉の中の不思議な空気に感化されたように笑い
秘められた謎のような楽しさにうれしくなった。
「そうだねぇ。きっとすごい西だろうねぇ・・・」
少し面倒くさそうな、スバルの声。
二人の様子を見て、フエは笑った。
「藤色のお前は色陣を使うようだね、糸を使うから・・・紬紡印か」
「あ・・・はい、どうして・・」
「ははっ、わかるさ。
その指を見ればね、紬紡印は糸が肌に食い込むから、傷も出来やすいだろう。
あたしも使い手に出会うのは久しぶりだが・・・フウジラ以来か・・・」
「フウジをしってるの!?」
ガタンッ
驚いたように慌てて椅子を倒し、スバルは立ち上がる。
突然のことに周りは静かになる。
「ああ」
搾り出た、小さな声。
スバルは意外そうに口を大きく開けた。
「えぇ・・・?なんでぇ?」
「フウジラとは陣仲間なんだよ。
今では陣協会の会長もやってるくらいだ、陣使いで知らないものはいないさ」
自分のしらないところに陣コミュニティーがあると知りスバルはあんぐりと口を開ける。
「おい、スバル、誰だよ、フウジラって・・・っていうかなんだよ、陣協会って」
「ああ・・・フウジ、フウジラはねあたしに陣を教えてくれた人。
若いのに本当に強いんだよ・・・」
響くから笑い。
苦々しそうにスバルは告げた。
「へぇ・・・その人がお前のお師匠さん?」
「ううん、お師匠様は別に居るの。
フウジなんかよりずっと頼もしくて格好いいよ」
そこに少しばかり嫌悪のようなものが感じられるのは気のせいだろうか。
スバルは眉をいきつらせた。
「陣協会は陣使いのまあ、組合だよ。まんまだね。
そう、で。フウジラ以来なんだよ、お前は。
なかなか見るものじゃないからね」
なかなかの熱いトークを四人は交わしたが
多くを語るフエも歓砂の陣は知らないと首をふった。
残念そうにうなだれる二人だったがラドリフを貰うとスバルは機嫌良さそうに笑った。
フエに汚れた洋服をあずけ、三人は静かに店を出た。
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こんなんでいいんでしょうか・・・空旅。
まさかおばあちゃんとのお話で一話つぶれるとは思いませんでした・・・!!
とても楽しかったです。
特にラドリフの説明のあたり。
いきあたりばったりな私ですがやっとこさ物語がつながりそうです。
こんなんで大丈夫か・・・まだまだ物語は続きます。
終わらせることが出来るのか・・・!!
自分に激しい叱咤をあびせつつ、今日も元気に走ります。
(2002/12/22....haruco)