14 遊び
目を開けると、コーヒーの香り。
ゆっくりとハヤテは目をあけると腹筋に力をいれ起き上がった。
「ああ、おはよう」
笑う、声。
「オハャ」
なんでこいつはいつもこんなに早く起きているんだろうと思いながら
ハヤテは言った。
「いつも同じメニューで悪いけどね、いい加減旅立つ時にもってきた分の乾燥パン食べちゃわなきゃとおもって。
缶開けてから一、二週でしょ?そろそろね。
うん。
あ、コーヒーに砂糖入れておいたから。
確かそんなに甘くないほうがいいんだよね。
スプーンに軽く一杯だけだけど、ちょうどいい?」
「ああ・・・うん」
「そっかそっか。
良かったぁ」
にっこりと、スバルは笑う。
完全に覚めぬ頭を揺らしながらハヤテは会話をした。
目が覚めていくのと同時に頭の周りの気温が下がるような感覚を覚え急に意識が覚醒してくる。
「あぁ・・・朝か」
やっとまともに口にした一言がそれ。
ゆっくりと瞬きをして数回頭を振った。
「顔洗ってくるわ・・・
スバルはいつから起きてたんだよ」
「あたし?一時間位前かなぁ・・
日が昇ってちょっとたった頃かな。
少し寒かったけど体起こしたら目ぇ覚めちゃって・・・
軽く運動してた」
ああ、運動ね。
思い、タオルをもって近くの川へ。
スバルは体を動かすのが好きらしい。
一、二週間付き合ってやっと習性がのみこめてきた。
なんというか、つまり小動物のようなヤツなのだ。
せわしなく動き、ちょっかいを出せばすぐ噛み付き
慣れてしまえば危なっかしいくらいかまってくるのに
危険を第六感ともいうべき何かで察知し、あたりを警戒する。
とにかく、なにはともあれ良く動く。
とても静かに、とても軽く。
軽い運動とかいいつつ、今朝も木を相手に気合をぶつけていたのだろう。
「元気なやつだなぁ・・・」
顔を洗う合い間をもって、ため息をつく。
ひんやりとした感覚が顔を覆い雫となって垂れていく。
「あれぇっ!?」
急に大きな声を出すとハヤテは一度振り返り、立ち上がり、伸びをしているスバルをみた。
「おいおいっ!」
駆け出す。
ガサガサっ
乱暴に走る足元によって草が揺れ、低い木が揺れる。
ペシッ
スバルのもとに辿り着くと勢いはそのままに思いっきり頭をはたく。
「痛っ・・・!
ハヤテぇ?なにすんのさ」
「黙れこのやろう。
足どうしたよ!足!!」
大きく目を見開いて言う。
「ああ・・治ったよ」
「んなわけねぇだろ!!」
どうせ無理でもしてんだろ!と大きく言ってあぐらをかく。
無理にスバルを座らせて昨日消毒の後ズボンの上から巻いた包帯を丁寧にとっていく。
「治ったってば・・・痛くないもん」
「冗談いうなよ。
だって・・・おい・・・」
いいかけて、とまる。
血のにじんだ包帯は地にまかれ
取り去った後には・・細い足。
昨日の傷など残っていない。
「キモっ・・・」
いってハヤテは大きく後ろにさがった。
「ね?治ったでしょ?」
「治ったでしょ?じゃねぇよ!
ふざけんな!」
心底おびえたように大きな声で言うとハヤテは気にしがみついてスバルに吠えた。
「なんだよ!なんで治ってんだよ!!」
「だからぁ・・・治りもともとはやいんだってば」
「ふざけんな!!」
あいかわらず下がったままもどってこないハヤテにスバルは四つんばいでのそのそと近づいていった。
目線は、同じ位置。
「ああ、羨ましい?」
言ったスバルに
ハヤテは怯えていった。
「人間じゃねぇだろ」
笑う。
「人間だよ。
ちょっと治りが早いのって珍しいんだね、フフ」
不気味に笑って言うスバルにハヤテは恐怖をあらわにした。
「さぁハヤテ!怪我も治ったし、立って立って!」
なんだよといいながらハヤテは立ち上がる。
旅立ちをせかすような仕草ではあったがとうのスバルが荷物を持っていない。
訝しがりながらハヤテはスバルを見やった。
「さあ、やるよ。
いい?」
構え。
「おい待てよ!
なにやんだよ・・!」
慌てふためいて言うハヤテ。
いきなり構えの姿勢をとったスバルは目をぱちくりさせてから当然のように言った。
「手合わせ」
「ふざけんな!
お前色陣使うじゃん!俺、陣防ぐ術なんてねぇよ!」
血相をかえておびえたように言うハヤテ。
そんなハヤテを笑いつつスバルはベルトにあるポケットから色陣用の糸をとりだすと鞄のほうに移した。
「?」
「だぁいじょうぶ。
つかわないよぉ。
別にハヤテに連結棒使うななんていわないし。
あれだよ、なんていうの?体術。
だいたいハヤテと闘ったことなかったし」
あまりにスバルが楽しそうにいうのでため息がでる。
「疲れんじゃん、やだよ。
第一お前女じゃん」
「だから何?」
「女にこぶしを振るえと?」
「できない?」
「いや、できるけど・・・顔とか駄目だろ?
痛いし・・」
ああそうかと小さく呟くスバル。
しかしすぐに顔を上げると楽しそうにいった。
「じゃあおなかとか足とかその辺にしてよ!
ああでも、骨折るのとかナシね。
吐血まで良し」
話が通じないと分かるとハヤテはさらに深いため息をした。
そして腰から連結棒をはずす。
からころと木がなりあう音がした。
「あれ?使わないの?」
「つかわねぇよ。
お前・・・本気でやるの?」
「やるよ」
悪寒。
背筋が凍る。
俺、死ぬかも。
思ったが口にはしない。
第一、安易に負けることは許されない。
なけなしのプライドが叫んだ。
「・・・いいよ」
小さく言うと、ハヤテは構える。
もともと道場でならった程度の体術で、どこまで通じるのかは分からないが・・・
「・・・ありがと」
スバルは小さく言うと再び姿勢を低くし、構えた。
静かに呼吸を整え、深く息を吸う。
まるで音が消えたように、一瞬、全てが止んだ。
ダッ
スバルは一気に地を跳ねるとハヤテの懐に飛んだ。
「・・・っそ!」
言葉にならない短い声を出してから大きく右に跳ぶ。
正確に避けたと思い安堵した瞬間、元いた位置にスバルは右手をつきそのまま転がり素早く迫る。
足首をつかみ立ち上がるのと同時に一気に手前に引くといとも簡単にハヤテは仰向けに地に倒れる。
がさっ
しかしまさに地に背がつこうとした瞬間、ハヤテは体を素早くひねらせ地に手を付いた。
瞬間弱まったスバルの手を無理やりほどき、そのまま後ろへ飛ぶ。
再びできた間合い。
数秒の出来事にハヤテは息を乱した。
「っくしょ・・・」
ひたいの汗をぬぐう。
軽い身と、流れるような動作でスバルは軽く攻めてくる。
流れにはまってしまえば抵抗する間もなくやられてしまうだろう。
女に向かって攻撃できないだのと言っている場合ではなかった。
スバルのやつなんか微妙に本気っぽいし・・・手ぇ抜いたら俺痛いし・・・
「悪いな」
小さく呟いて、低く構えた。
そのままの姿勢で一気に走る。
大またで駆けスバルが動く前に右手をつかむ。
そのまま手前に引き掴んだ手はそのままにスバルの背に向かって一撃、放つ。
「っ・・・」
小さく漏れた声に一瞬強い罪悪感にさいなまれるが油断せぬままそのままの勢いで地におしつけようと力をこめる。
しかしスバルはたった今一撃食らったにもかかわらず器用に左手を背に回し地に押し付けようとしたハヤテの手をはじくと
つかまれた右手を軸に身を翻し受身をとって地に身をあてる。
「てっ!」
それでもハヤテは動じることなく右手を掴んだまま放さない。
スバルはその手の近くに左手もつくとすぐに倒立の姿勢に入り体をひねり足に回転を加える。
スバルの右手をつかんだ左手と空を切った右手を地につけたハヤテは中腰。
底に回転の入ったスバルの足がとんでくる。
「わっ」
考える間もなく、反射的にハヤテは手を放し横に転がった。
少し離れたところで慌てて身を建て直しゆっくりと立ち上がる。
驚いた。
まさか片腕を地に押し付けられた状態で攻撃の姿勢に入るとは。
一撃背に入れたとはいえ、衝撃は内臓まで伝わらなかったようで軽く動いてのける。
浅かったか。
一息ついて、攻撃に備える。
「ふっ」
小さく息を漏らし駆ける。
真正面から向かっていくと同じくスバルも真正面からかけてくる。
こぶしを振るうでもなく、次第に姿勢を低くして。
悪いがここはパンチしかないかねぇ・・・
内心苦く思いつつ右手を振るう。
一撃で倒れるよう勢いをつけて腹部めがけて低く構える。
しかしそのこぶしは空をきった。
「えっ」
思わず漏れる声。
瞬間で消えたスバルの姿は視野に映らず呆けたように一瞬止まる。
ヒュ〜
軽い口笛。
バッ
慌ててハヤテは上を向く。
背を向けて頭上を飛ぶスバル。
背の方向に流れる空気。
「くそっ」
あわてて首を後ろに向けるが間に合わず。
背後に降り立ったスバルはすぐに体勢を立て直し肘を横に構え勢いをつけて振るう。
ドッ
激しい衝撃と共に背に激痛が走り
ハヤテは地に倒れた。
「ってぇ〜」
思わず目に涙が浮かぶ。
慌てたように名を呼ぶ声。
「ごめんね」
言った顔はすまなそうに目を伏せ。
そして、笑った。
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いっえ〜!!
最高に楽しい回でした。
なんていうか、アクションの練習がしたくて。
一向に上手くなりませんが書いててとても楽しい回でした。
主に力の差のせいで男が強い、女が弱いという考えがあります。
それは間違いではありません。むしろ大正解。
結局最後に物を言うのは力で、さらに包容力。(なにいってんのハル子)
『女にこぶしをふるうなんて』
思うでしょう。当然思うでしょう。
だからあえてハヤテに一撃入れてもらった。
戦う上で、互いに必死に戦う上で、女にこぶしをふるうのは
それは相手と認めることだと思ったから。
もちろんそんな簡単なことじゃないだろうし、すごい抵抗あると思うんですがね。
女だからわかりません。
ただこの2人なら、互いにきちんと本気で遊んで欲しいし。
きっとこんな感じ。
ふふ。
次こそ、次の旅へ・・・
(2002/08/26....haruco)