13 そこにいること



目が覚めるとそこは柔らかい草の上だった。

ああ、そうか。

番人はあのあとすぐに姿を消してしまって、さらに周りの景色も歪んでしまって。

結局自分達がいたのはただの洞窟になってしまったんだった。

「スバル?」

そう呟いてあたりを見渡してみても誰もいない。

あれぇ?どうしたっけかな。

一応洞窟の中に在るといわれた神殿にも行ってみたがただの石造りの祭壇で。

洞窟を出た時にはもう朝で。

自営局で朝食をいただいて、海の王に文を飛ばして・・・

「ああ・・・!

 そうか!休憩中だった!!」

そういって勢いよく身を起こす。

あ、いったぁ・・・

腰に激痛。

日ごろ猫背で歩いているからかねぇ・・・痛いよ、腰。

「スバルー?」

立ち上がって、とりあえず名を呼んでみる。

反応無し。

あたりを見渡し、もう一声。

しかしあたりに響くはただ森の声のみ。

かさり・・・

一歩踏み出すと、俺の足は数枚の落ち葉を踏みしめ音を立てさせた。

もう一歩、さらに一歩。

ゆっくりと歩く足も次第にペースを早め、ついには走り出す。

「ああ、お前知らねぇ?」

頭の上にとまった小鳥に一声。

しかし小鳥は"知らない"というようにくちばしをカツカツあわせるとすぐに飛び立ってしまう。

ただ、音が聞えると言い放ち、俺をおいて森の奥へと進んで行く。

不安がつのる。

何だろう、久しぶりに感じる、焦り。

明け方地図で見た限りではそう広い森ではなかったはずだ。

その向こうに広がるウチ砂漠に備え、ここで休息をとり、道具の整理をしようと。

そう約束したはずだ。

ただ、肝心のスバルの姿が見えない。

小鳥が、小さく鳴いた。

「?」

ふと何か風がながれたような気がして、少しばかりさらに歩みをはやめる。

目の前には俺の頭のたかさほどの草が覆い茂っており、その向こうを見ることはできない。

「っくしょ・・・」

小さくもらし、俺は手を前に出した。

一歩踏出すとそこに長い草はなく、手も空を切る。

両手を突き出しそのままかく。

ガサガサ・・・

背の高い草は音を立てて両方に割れ・・・

目の前は、開けた。



「あ・・・」

思わず声を漏らしてしまうほどの抜けた景色。

先ほどまで視界を覆っていた背の高い草はなく、芝のような草が足元を一面覆う。

目の前は小高い丘になっており、その中央には・・・横たわる、人。

「スバル・・・?」

自分でも間抜けに思えるほど小さな声で、呼んでみる。

それでもぴくりと、体が揺れた。

「スバル!!」

大声で呼び、近寄る。

なんだ、こんなところにいたじゃないの。

まったく、手間かけさせて。

一発叩いてやろう。

渾身の力を込めて。

あいつはさぞ痛がるだろう。

腕なんかはそこいらの草で切ったのか血がにじんでいるし、とにかく殴らなくては気が済まない。

しかも呑気に寝てやがって。

畜生。

・・・・?

一歩一歩近づく旅に、何かがおかしいと思う。

あまりにも、横になる様が、力無いので・・・

「おいっ・・・!」

焦りが再びやってくる。

見やったスバルの体は力無く。

足が赤く染まっていた。

出血の量はさほど多くはなかったがズボンは赤く濡れ、芝にまで赤い液体を垂らしていた。

「おい、どうした!

 スバル!?スバル!!」

「ああ・・・ハヤテ・・・

 なぁんだ、起きたの?」

「うるせぇよ、だまれよ。

 どうしたよ!足」

「大丈夫だって・・・」

小さく、スバルは言った。

そのまま俺の手をはねのけ、立ち上がろうとする。

しかし相当痛むのか立ち上がることはままならず、ぐらりと揺れる。

「うわっ・・・」

その体を慌てて支えるとふたたび地に座らせた。

「何だよ・・・どうしたよ・・・

 うわっ・・・切れてんじゃん、足・・・

 おい、ちょっと見せろ」

「ちょっ・・・ハヤテぇ・・・」

有無を言わさず足をつかむと右足首を持ってあぐらをかいた足の上に乗せる。

出血は、そこまでひどくない。

皮膚が菌等によって死んでいることもない。

だが切れているといってもそれは少し深く、応急処置でほうっておいて良いものではなかった。

「何、した?」

ゆっくりと、目を合わせて聞く。

「何でも・・・ちょっと・・・陣を・・・」

「陣?」

「陣を、飼い慣らそうと思ったの・・・」

次第に小さくなって行く声を聞きながら昔のことを思い出した。

ああ、そう言えば。

あいつも昔はそうだった。

知らない間に出かけていって、迎えに行けば怪我をしていて。

そのうち救急箱をもって迎えにいくようになったんだった。

「大丈夫だよ」

「どこがだよ」

少しきつめに言い放つ。

「確かに傷はそんなに深くねぇけど、歩けんのかよ。

 お前、いかにも堪え性ねぇじゃん」

「大丈夫だって。

 ほうっておけば一日もすればなおるもん」

「えぇ!?」

情けない声で、叫ぶ。

普通の人間の治癒能力でいったらまず一日では直らない。

しかも、結構な深さ。

「なおんねぇよ。さすがに。

 っていうか治ったら人として認めないよ?俺」

「なおるんだよ。本当に。

 なんていうの?根性、根性。

 昔から傷の治りはいいの」

信じらんねぇ。

っていうか治ったらマジ認めねぇ。

しかしあまりにきっぱりとスバルが言うので、俺はたじろいた。

「で?飼い慣らせたの?」

「うん」

にっこりと笑う。

「てこずったけどね。

 抵抗はこんなもんですんだけど・・・糸を組むのが大変だった」

「抵抗・・・ねぇ」

「やだ、そんな顔しないでよ。

 確かに結構痛いけれど本当に治るから。

 でも・・・軽い方だから・・・本当に」

口調が変わるので、顔をゆっくりと上げる。

スバルは照れたように下を向き、髪を手でとかしていた。

「どんな、かんじなの?」

「え?

 ・・・ああ、抵抗?

 陣を自力で浮かび上がらせられたと思うとね、こう・・・びゅって風が自分に向かって吹いてきて・・・

 今回はその風に刃が混ざっている感じだったかな。

 なんていうの?強い風が吹いてきたと思ったら急に足から血が出てて・・・ああ、痛いなぁ・・って。

 でもね、大丈夫だから。

 本当に。大丈夫。

 ひどい時なんてね、満身創痍になっちゃうことだってあるんだから。

 まあ術者しだい、力次第だけど。

 本当に、大丈夫だから」

ね?と笑顔を向けていうスバル。

思わずつらくなって手をぎゅっと握った。

「ハヤテ?」

「次からは・・・俺のいるところで、やろうよ」

「ハヤテなにもできないよ?」

「知ってる」

「あたし勝手に怪我するよ?」

「知ってる」

「きっと、迷惑かけちゃうよ?」

「・・・知ってる」

だから、だから。



あ ま り に も

笑 う そ の 顔 が

痛 く て

た だ 、 何 か で き な い か と 思 う と

で き る こ と が

一 つ だ け





そ こ に い る こ と







「揺れる?」

「揺れる」

「重いよ、お前」

「うるさいね、黙れ」

「落とすぞ、てめぇ」

「・・・・・・ヤメテクダサイ」

小さくスバルがいったので笑った。

背に娘、おぶり。

もと来た道を、ぶらり。

足を一歩踏出すたびに抵抗が減るので。

あまりにおかしくて。

かけだす。

かけだす。







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休憩。のわりには怪我してますが。

どうしても陣を飼い慣らす話しが書きたかったのと、ハヤテ一人称で行きたかったのと。

実は今回話しのタネに困りまして、友人にネタ提供を求めたところ

「早く行かないとスバルが!」

というお言葉をいただきました。

ごめん・・・ゆがんだよ・・・ごめん・・・

こんなことやりつつも、ハル子は元気です。

ちなみに最後は結局ハヤテがスバルを負ぶっていますが

このあと急にスバルは恥ずかしさから抵抗を再開し、もみくちゃに・・・

ふふふ。

なんだろう、このふたり。

ただ、最後まで微妙な一人称だったのはさすがに申し訳ないです。

ふふふ。

ふふふ。







(2002/08/25....haruco)