12 声



それはまるで夢を見ているかのようだった。

うっすらと開けた瞳には淡く赤く光る炎と見たことの在るような像が次々と浮かぶ。

いいようもない浮遊感が体を襲い、手足は自分の物ではないようなしびれを訴え自分の意志で動かせるのかさえわからない。

風車小屋がまずうかび

人の姿が浮かび

獣が浮かび

特別意味のないどこにでもある、どこにでもいるものが次々と浮かび上がる。

声が流れ込んでくる



きっと



小さくかすれたような声はいつもきく声に似ている

多くの者から発せられる似たような声で

穏やかな深い、癒される声



夢の中にいるような感覚に陥っている中

ふと足もとに地を感じる。

それを認識すると次第に視界は開けていき、ゆっくりと再び開かれる瞳にはだんだんと現実が映り込んでくる。

声が呼ぶ

声がする







それはまるで忘れてしまったことを思い出させるようで

まどろむような、燈の光にあてられているような

そんな暖かい感じにさせる



ゆっくりと瞼を閉じれば

きっとさぞや心地よいのだろう



ただ瞳を閉じれば

同時に大切な思い出も飛んでいってしまうような気がして

最後のところで踏みとどまる

決して離してはいけない

きっと全て飛んでいってしまうから



そう思った瞬間

急に体が冷たくなるのを感じた

暖かい空気は完全にさり

どこかに飛んでいってしまったかのよう



ふと、声を聞く

スバル、と呼ぶ声

それと同時に

声を 思い出す

おいで、という声





二人はほぼ全く同時に瞳を開けた。

あたりを見渡すことも無く、ただ目の前に広がる光景に目を凝らす。

番人はそんな二人の前にいて、ゆっくりとお辞儀をした。

「何、これ」

スバルは言いながらゆっくりと番人の足元を指差す。

そこには光り広がる不思議な模様。

今まで見たこともない、不思議な模様。

複雑に入り組み美しい模様を描き、中央に文字のようにつづられる形。

光り、浮かび上がった図形の中央に、彼はいた。

「これが、陣。

 あなたたちが求めるものでしょう?」

ゆっくりと、瞬きをする。

妙に落ち着いた自分に違和感を感じつつもハヤテは言った。

「陣。

 これが、ねぇ?

 こんなの一体、なんの役に立つんだよ」

嘲笑う。

スバルは首を傾けてハヤテをみて、苦笑いした。

眉を軽く上げ、肩をあげて言ってみる。

「伝説を本当にするため

 掌空に富をもたらすため

 勇気ある心と共に迷う事無き行動をし

 夢の中に埋もれる価値を再び世に」

ため息がもれた。

たしか掌空の王に聞かされた言葉だ。

ありがたく、厳かな響きをもっているはずなのになぜかため息が出てしまう。

あきれるよ。

宝捜しより面倒くさい。

「さあ、覚えてしまおうか」

「待って」

軽くスバルが言ったのを聴いて、番人は声をかけた。

「あなたにこれを伝える前に

 私にはやらなくてはならぬことが在る。

 私はあなたたちを見極めなくてはならない」

「見極め・・・る?」

不安そうに首をかしげるスバル。

ハヤテは首を軽くまわした。

「別に私は陣を守るためでも

 ここに来る人々を倒すためにいるわけでもない。

 ただ、いつも待っているのです」

「待つ?」

「そう。

 ここにくるまで、少し頭を使わなくてはならなかったでしょう?

 知識がなければ、どうにもならなかったでしょう?

 知らなくてはならないことを、知っているか。

 それが重要だったのです」

おそらく空の陣だとか、アガリスクの意味のことをいっているのだろう。

少しばかり重い空気に吐いた息は緊張のあまり細かった。

「確かに番人だとはいったけれど

 私はいつもここにいるわけではない」

「?」

「いつもは止まった空間の中で

 ただ漂うだけの力の一片にすぎない。

 大きな中に溶け込む一片に。

 しかしだれかがここに近付けば、私の夢はそこで途切れ見極める仕事を与えられる」

「で?」

しびれをきらしたように、ハヤテは言った。

番人のいいたいことがまるでわからない。

見極めるといって攻撃をしかけ、力を試すのでもなければ

謎をだし、解かせるようなこともしない

ただ語るだけであった。

「つまり、私はあなたたちを見極めた後、大きな所にかえるのです。

 そこであなたたちのことを、伝えなくてはならない」

「あなたみたいなのが、たくさん集まって大きなところはできているの?」

戸惑ったようなスバルの声。

「そのような感じです。

 もしもあなたたちが陣をさらに集めるのなら、さらに他の欠片にも会うでしょう」

「つまりは・・・」

軽く、首をひねる。

腕をならし、足首をまわす。

視野に入る髪の毛をはじくとハヤテは続けた。

「俺達のことを、情報を得なくてはならない・・・と?」

「そのようなところです。

 どんな者であるか、本質を知らなくてはならないというのもあるのですが

 そちらはもう分かりましたから」

にっこりと、笑う・・・ような顔をする。

番人は二人の方に同時に手を向けた。

「目眩を覚えたでしょう?この部屋に入った時。

 それが、全てです。

 あとはもっと単純な質問を少し」

ゆっくりというと二人を見た。

視線があう。

しばらく黙っていた二人だが、ゆっくりとうなずいた。

「聞きたいことは、一つだけ。

 ・・・・名は?」

・・・・・。

思ったよりも、ずっと些細なことに二人は一瞬黙る。

肩後からが抜け、思わず笑みが零れた。

なんだ、それだけか。

「名前?そんなんでいいの?

 俺はハヤテ。ハヤテ・イチハ」

番人に笑いながらハヤテは言う。

スバルの方をみると、穏やかな笑みを浮かべていた。

「?」

一瞬、誰だかわからなくなる。

何せあんなに落ち着いた表情は見たことがなかったのだから。

まだ少し色の抜けた髪には馴れていなくて、違和感はさらに増す。

スバルはしばらく穏やかな表情をしていたが、ハヤテの視線に気づくとすぐにへらっといつもどうりの表情をする。

「あなたは?」

「スバル」

小さく言う。

軽く、一言。

「ああ、そうだ。

 お前下の名前なんてぇの?

 國から渡された紙に書いてあったんだけどよ、難しくて読めねぇの。

 教えてくれよ、ついでだから」

ハヤテの声に、スバルが振り向いた。

そして笑う。

「・・・!」

まただ。

またあの表情。

「スバル。

 スバル・アルゲッタ・ミシットランド」

気高く、凛とした声で、スバルは言った。

「これで、もう。

 読めるよね?あの文字も。

 あのくらいの文字読めないなんて、ハヤテ駄目だね。

 駄目子」

表情を変えて、スバルは続けた。

「さあ!もういいでしょう!?

 さっさと覚えさせちゃってちょうだい」

「ああ」

番人は小さく笑った。

おかしそうに、小さな子供でも見るように。

番人がその場から退くと、スバルは両手を広げ、仰向けにそこに横になった。

小さな声でぶつぶつと呟き、目を閉じている。

突然の行動にハヤテは一瞬驚くがどうしたらいいのか分からずに、ただ立ち尽くす。

数秒横になっていたスバルだが。

すぐまた数秒後には気が済んだように起き上がる。

ウゥ・・・

小さく音をたてて、

すぐに起き上がると振り向き、にっこりとわらう。

「へへーっ」

照れてでもいるのだろうか

顔を赤くしながらとても嬉しそうにハヤテに向かって笑う。

「なんだよ」

ぶっきらぼうな返事が降ってくる。

一瞬笑みを強めてからスバルは瞬きし、さらに笑った。

「なにやってんの?

 スバル」

「感じたんだよ。

 陣を」

いったのは番人。

にっこりと笑いながら言った。

「・・・・陣を扱うやつっていちいち陣を地にかいてねっころがるの?その上に?

 マジで?ねぇマジで?」

「ちがうよぉ」

口を尖らせるスバル。

「あたしだっていつもねっころがってるわけじゃないんだよ?

 でも時々ね。

 どうしても手で触れたりするだけじゃいまいち分からないことがある。

 考えてみてよ、ただ図形覚えるだけだったら誰でも陣使えるじゃないか」

俺は空の陣普通に使えたけど?

いいかけて、やめる。

あれはきっと例外なのだろう。

ため息をついて、スバルを見やった。

「で?もう大丈夫なの?終わったの?」

なんだか知らないことが恥かしくなってきたのか

自然と顔が赤らみ口調はさらにぶっきらぼうになる。

「大丈夫。

 図形は分かったし」

にっこりわらって起き上がる。

完全には乾いていない服が重たそうに揺れた。

「ありがとう」

静かに言った。





ふと 声が聞こえた

聞いたことの ある 声

ずっと ずっと 聞いてきた 声

小さく笑うと 嬉しそうに 喋る

ああ そうだ

声を かけよう







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ええっと・・・ちょっとわけ分からない方もいらっしゃると思いますがアガの洞窟篇終了しました〜

いやはや長かった。っていうか陣一個回収するだけでどんだけかかってんだ、マジで。

一応タイトルを『声』としたのですが過去を振り返るような感じになりますね、どうしても。

だって!書きたいことが多すぎて過去と現在の収集が・・!(何をいまさら)

がんばります。

とりあえず次からまた旅にだそうか、ああ一回位休憩を入れたほうがいいんでしょうかね。

実はこれは書くの二回目で半年以上前にすでに14話まで書いていたんですが9話の時点でもう陣手に入れてました・・・

ああ!どうしよう・・・・!素敵に遅れが出てますね★(ウィンク)

がんばります!本当に!!

夏休み中に十話進めよう企画、自分内発動していますので・・・あと五話!!

おお、リアルにいけそうな数字になってきましたね。

これからも、よろしくです。









(2002/08/20....haruco)