11 番人
「あ・・・」
声がもれた。
「やだっ、何?」
咄嗟に身を引くと身をかがめ攻撃に備える。
目の前の人をにらんだ。
「・・・誰?」
静かにその人を捕らえながらスバルは言った。
そこにいたのは果たして人といってよいのだろうか。
その髪は赤く光り、瞳は血のように赤く深かった。
赤い人は背が高く、体はゆるい衣に包まれていた。
「誰?」
もう一度、たずねる。
赤い人の眉がピクンと動いたことからハヤテは口を開いた。
「人・・・?」
ゆっくりと、呟く。
「人では、ないよ」
キュッ・・・
突然声を発した人に警戒を強め、足を強く踏みしめる。
靴と石床とがきつい声をあげた。
「人では、ない。
そんなに警戒せずとも、別に襲ったりなどはしない」
「・・・・誰?」
繰り返しスバルは尋ねた。
静かに、静かに言葉が漏れる
吐く息は冷たく、指の先は燃えるよう
炎をもつその髪と瞳は視線を捉えて話すことはなく
低く、響く声はまるで夢でも見ているような響きだった
「だれ・・・ですか?」
遠慮がちに、再びたずねた。
「番人。
此処でずっといつも人を待っている。
あなたたちのような、霧を求める人々を」
「霧?」
「つかむことのできないもの。
願うもの」
静かに番人は言った。
促され地に座った2人は訳がわからない、とでもいうように互いを見やった。
「君達が、何を願うかは分からないけれども
必要な陣はこの先にある」
「じゃあ!それをもらえば・・・・って・・・
ねえハヤテ?」
一瞬嬉しそうにいったスバルだが、すぐに怪訝な顔になりハヤテを見た。
「どした?」
優しく、たずねる。
スバルは口を尖らせ番人とハヤテを交互に見た。
「陣って・・どうやって回収すんの?」
「・・・メモれば?
模様なんでしょ?」
「模様だけど・・ねえ?」
小さく、もれる声。
番人は苦笑いした。
音もなく数歩歩き、壁に手をつく。
ちょうど手をついたところは壁画の描かれているところ。
女の絵が書いてあるところだった。
「そのために、君がいる。
陣を得ることは、陣を学ぶこと。
その力を持って、己の身とするしかないのだから」
「つまり・・・?
あたしがその陣を覚えるの?」
ゆっくりとハヤテをむく。
俺、陣使えねえもん、とハヤテはその瞳を見つめ返していった。
「ああ!だから審査免除か!畜生!
おかしいと思ったんだよ、なんで色陣使えるくらいで国司に楽々なれるかって!
そうだよね、最近は銃の開発とかあってわざわざ陣学ぶ人も少ないものね!?
だから!?だからかよ!」
立ち上がり、こぶしを握り、悔しそうに一気に喋る。
何か起こっているようだが何故怒っているのかわからないので呆然とその様を見やる。
その後もしばらくぶつぶつと言っていたようだが言い終わると一人息をつき、辛そうに2人をみた。
「ど・・・どした?」
ゆっくりと、たずねる。
このとき、怒りを再び燃えさせぬよう、とりあえず落ち着かせねばならない。
ゆっくりと、ゆっくりと。
「ハヤテぇ〜」
しばらくハヤテを見つめていたスバルだが
情けない声を出すと座るハヤテに急にすがるように倒れかかってくる。
「うぉ!」
一瞬、もたれかかるスバルに動揺したがすぐに落ち着きを取り戻すと
情けなく独り言をもらすスバルの背を優しく叩き、赤子をあやすように語り掛けた。
「なんだよ」
「ハヤテぇ〜」
「・・・・何」
スバルは腕に力をこめハヤテの肩を押し、ハヤテから離れる。
「あのね、陣を覚えるのって大変なの」
「ん?」
「色陣をやるとね、きちんと編み上げた後に模様が浮かぶの。
編んだ糸の中央にね、力の源の印として」
「ふむ」
またポンポン、と背を叩く。
スバルは鼻をすすった。
「これはある一定の法則に基づいて形が出来てるんだけど・・・
今から見る陣っていうのは多分この最後に浮かぶ印のことなんだぁ」
「ほう」
「でもね。それでは困るの。
なんていうの?完成してその印が浮かぶわけだから数式の答だけ分かっているようなものなの!」
「?」
「つまり、一定の方式に基づいて出来てるとはいえいきなり模様だけだされてもね
あたしにはぱっと見どんな編み方をすればいいのかわからないわけよ!
ついでにいうと呼吸のリズムも考えて、ムゲンも唱えなくちゃならないんだから」
「ムゲン?」
ああ、知らないのか。
小さくスバルは息をつく。
ようやく落ち着いたのかハヤテからはなれると下をむいて小さく歩いた。
「呪文だよ。地方の言葉がもとになっているの。
とにかく、大変なの。
陣が分かったからっていっていきなり使えないの。
あたしはそれを見つけ出すために何日も眠れぬ夜を過ごさなくてはならないの!!」
地をどんどんと踏み鳴らし、スバルはさらに声を荒げた。
あまりの形相にハヤテは息を呑んだ。
「さらにいうなら!
すごく痛いんだよ?
陣、飼い慣らすのだって大変なんだから!」
「飼い慣らす?」
「陣はあくまで力の入り口なの。
だからその向こうにある力を借りるためになんていうの?相手の抵抗を受けて押さえなくてはならないの」
ゆっくりと、言う。
でも、とハヤテ。
「さっき俺があの扉を開ける時に空の陣を描いた時は何ともなかったよ?」
空の陣。
掌空に古くからおかれている陣だそうでハヤテが旅立つ際に伝えられたものだ。
ただ『空』とあるところに指で描くだけで良い。
たったそれだけのことでスバルの言うような痛みなどは何も感じなかった。
「それは陣が『力を借りる』ためじゃなくてただ『鍵』になっていたからだよ。
実際あのとき扉をあける鍵の役割を果たしていたでしょう?
それに飼い慣らすのは始めだけで良いから・・・だからこそ気の強い力はすごい抵抗するの。
いやだなぁ・・・痛いんだろうなぁ・・・」
不安そうに、つぶやく。
何もいえないでいるハヤテにスバルはしかたなく笑いかけた。
もちろんその笑みは今にも泣き出しそうなくらい辛そうなものだったが。
「いいよ、がんばるさ・・・」
小さく、つぶやいた。
そして、番人がゆっくりと二人に向かって歩いてきた。
音もなく、空気も揺らさず。
時々ちらちらと揺れる炎が眩しかった。
「私はこの奥にある陣のもとだよ」
小さく、言った。
「君の言うところの『力の源』とでもいうやつなの・・・かな。
もちろん、無意識で反発してしまうものだから・・・できるだけ押さえるようにはするから。
そんなに、戸惑わないで」
ゆっくりと、優しく紡ぎだされる声に二人は一瞬揺れた。
しばらくしてはっと何かに気づいたハヤテは急いで番人の手を掴んだ。
赤く光るその指先は、熱くない。
あのヒカリゴケの光と同じように。
「あ・・・あんたやっぱり本当に人じゃないの!?」
間。
「・・・・人では、ないよ」
「ああ!なんてこったい!
じゃあなに!?獣?・・・・ちがうなぁ・・・なんだろう」
「人ではない。
それしか言いようがないね」
笑った。
そして彼は歩き出す。
ゆっくりと歩いていった部屋の奥の壁に彼が手を触れると小さく陣が現われた。
それをゆっくりと人差し指でなぞる。
風がながれ
霧が出て
光があふれ
道が ひらけた
...............................................................
な・・・なげぇ!なげぇよ!!どうしよう。こんなに長くするつもりなかったのに!!
ああ、でも。そんなに長くないかな?大丈夫?
とにかく、またしても話しが進みませんでした。
どうにも説明させてしまいます。
だって設定がんばって考えたんだもの。(だから何)
次もガシガシがんばりますよー
次こそ、アガの洞窟篇終了です!
ふふふ!
(2002/08/18....haruco)